2026 NO.39
Menu日本の祝いと食
人生の喜びを分かち合う食事
祝いの席に並ぶ料理には、食材や彩り、うつわの一つひとつに意味がある。食に願いを託し、人生の節目で喜びをともにする、日本の祝いのかたち。
写真●栗原 論

鶴を模した皿に盛られたマグロ・ホタテガイ・キンメダイのお造り
日本人は、人生や季節の節目を祝うとき、家族や親しい人と食卓を囲むことを大切にしてきた。子どもの成長を喜ぶ七五三や、卒業、結婚、長寿の祝いなど、とりわけ晴れやかな日には、特別な場所で祝いの心がこもった食事をともにする。
そうした祝いの席を演出するのも料理人の大切な仕事だ。婚礼などの祝賀の宴席を数多く手がける東京都心の日本庭園にある料亭で料理長を務める加納哲郎さんに尋ねると、「祝い膳に必要なことは、昔からの約束事を守ること」という答えが返ってきた。
欠かせないのが縁起がよいとされる食材。タイは「めでたい」の語呂合わせで、紅白の色は縁起がよいとされて祝いの席で重用されている。尾頭付きの姿は、「物事を始めから終わりまでまっとうする」という意味を持つ。エビは長い鬚と曲がった腰が老人を思わせることから長寿の象徴とされる。コンブも「よろこぶ」の語呂合わせで、慶事の喜びを祝い、家族繁栄の願いを託してきた。
見た目にも意味が込められる。うつわの形や文様にはおめでたいとされる動物や植物の意匠が用いられ、盛りつけには紅白の彩りが重んじられる。ときに金があしらわれることもあり、皿を華やかに演出する。
「そしてもちろん、季節の食材を使うこと。旬の恵みを味わうこと自体が、その時に集まれた喜びを分かち合うことにつながるからです」と加納さん。
一品一品に込められた祝いの趣向は、料理人のもてなしの心の表れだ。そこには、目には見えない思いを食に託す、日本人の繊細な美意識が息づいている。
左/青大豆の豆腐と春の山菜であるウルイに金箔を添えた一品。桜をかたどったうつわに盛られる
右/ふたの裏に鳳凰があしらわれた漆塗の椀に吸物をはる。エビのすり身に卵白を加えたものに、春の山菜のコゴミを添え、コンブと鰹節からていねいに引いたダシでいただく