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2022 NO.33

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日本の文学を旅する

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村上春樹を体感する

世界中に愛読者がいる小説家・村上春樹のライブラリーが東京にオープンした。
建築から家具、書棚の1冊1冊まで、村上文学の粋を集めた空間に酔いしれたい。

写真●栗原 論、中央公論新社

地下へと続く階段本棚。腰を下ろして本を読むこともできる

『羊をめぐる冒険』『ノルウェイの森』『1Q84』など、40年にわたる作家活動で数多くの傑作を世に送り出してきた村上春樹。翻訳された言語は50以上。読みやすい文体で展開されていく独特で複雑なストーリーに、世界中のファンが魅了されている。

2021年10月、母校である東京の早稲田大学に村上作品を身近に感じられる国際文学館(村上春樹ライブラリー)が開館した。アーチ状の入り口をくぐり抜けると、吹き抜けの空間の左右に書架が並ぶ「階段本棚」が目に飛び込んでくる。「現実と非現実をつなぐトンネルのよう」と村上作品を評する建築家・隈研吾が手がけた空間は、あたかも作品世界へ入り込んだような感覚に陥らせてくれる。

あたたかみのある木製のアーチで覆われた入口

50以上の言語に翻訳された本が並ぶ

地下に降りると、机や椅子をはじめ、棚のサイズや本人愛用の鉛筆までを細かく再現した書斎が現れる。作品が生まれる執筆環境を目の当たりにすれば、インスピレーションが湧き上がることだろう。

1階には村上作品の貴重な初版本や、各言語に訳された翻訳書が並ぶ。随所に読書スペースが用意されているので、思い思いに作品を手に取り好きなところで読めるが、おすすめの場所は、オーディオルームだ。作品への影響を幾度となく公言し、かつては「ピーター・キャット」というジャズバーを営んでいたほど、村上春樹はジャズ愛好家である。その村上氏が収集したレコードをこだわりぬかれたオーディオセットで聴きながら、お気に入りの村上作品を読めば、格別な時間を過ごすことができるだろう。

机や素材やソファなど限りなく実物に近く再現された書斎

長年収集していたレコードが並ぶオーディオルーム

このほかにも、館内には学生が運営するカフェや、研究会やイベントなどで使えるラボが設けられている。単なる資料館ではなく、人と人をつなぐ場所にしたいという村上氏の考えが反映されてのことだ。居心地のいい空間で、作品の雰囲気を体感しながら、さまざまな人と文学の魅力を語り合いたい。

『羊をめぐる冒険』に登場する、村上春樹本人が手がけた羊男のイラスト。ギャラリーラウンジの壁に描かれる

2021年に映画化された『ドライブ・マイ・カー』のワンシーン
©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

物語は世界の共通語だと僕は考えています。そして物語は小説の真髄でもあります。だから小説というかたちを通して、僕らは世界中の多くの人々と語り合えるはずだし、理解しあえるはずです。そういう動きの一つの中心地になるといいなと考えて、この早稲田大学国際文学館を企画しました。たくさんの人々に自由に利用してもらえればと希望しています。

村上春樹