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2021 NO.31

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召し上がれ、日本召し上がれ、日本

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甘味処

レトロな雰囲気を味わいながら
ちょっといっぷく

写真●新居明子

落ち着いた雰囲気の「初音」の店内(左)と外観(右上)。濃い木の色合いが重ねてきた時間を感じさせる
右下/鉄の茶釜で沸かした湯で淹れた、まろやかでおいしいお茶がふるまわれる

日本の都市のあちこちに見られる「甘味処」は、文字通り甘いメニューの専門店である。江戸時代後期、19世紀頃に生まれたとされ、のちに登場した「喫茶店」より歴史が長い。コーヒーやケーキ、サンドイッチなどメニューのほとんどが欧米由来である喫茶店に対し、甘味処で出されるのは、もっぱら和風スイーツ。店によっては、甘くない軽食を用意しているところもある。木や竹を多用した店構えや内装には古きよき日本の面影が漂い、昔にタイムスリップしたような気分に浸れる。

甘味処のメニューを構成する基本の素材で最も重要なのは、小豆を水と砂糖で煮た小豆あんだ。あんには、煮た後に濾して皮を取り除くこしあんと、皮を残したつぶあんの2種類がある。

小豆あんを甘いスープ状にした「汁粉」には焼いた餅が入っていて、食事代わりになる。海藻のテングサからつくる寒天と、赤えんどう豆を合わせた「みつ豆」は、白糖や黒糖の蜜をたっぷりかけても、さっぱり食べられるのが嬉しい。そのみつ豆に小豆あんをのせた「あんみつ」は、1930年に東京・銀座の甘味処が初めて売り出し、現代に至るまで甘味処の代表的メニューとなった。

あんみつ

左/小豆あん、求肥(米粉と水飴で練った餅)、果物が彩りよく盛られている。蜜をたっぷりかけて、さあ召し上がれ
右/中には寒天と赤えんどう豆も隠れている。つややかな寒天はあんみつの陰の主役

甘味処のメニューには、作り置きしにくいものが多い。もち米の粉を練って丸めてつくる白玉は、茹でた後、浸水の時間が長いと弾力が失われる。寒天も細かく切るとすぐ水気が出る。そのため白玉も寒天も客の注文が入った後に調理を仕上げる。歯ごたえがあり、それでいてなめらかな寒天や白玉と、甘い蜜、そしてふくよかな甘さが魅力の小豆あんが織りなす妙味。これを席でゆったりと味わうのはまさに至福の時だ。

東京・人形町の甘味処「初音」は、1837年の創業。八代目店主の石山美由紀さんによると、老舗の甘味処は、神社仏閣を中心に町が形成された門前町に多いという。

「昔、飲食店の客は男性が中心で、女性と子どもだけで安心して入れるところは甘味処くらいしかありませんでした。神社や寺院へ参拝した後、女性と子どもが気軽に立ち寄れる店として愛されてきたのです」

甘味処は、懐かしい雰囲気の中で手作りの甘味が楽しめる貴重な場所として、今では老若男女を問わないすべての甘党を迎え入れている。

雑煮

だし汁に餅や具を入れて煮た雑煮は、正月の祝い膳に欠かせないが、日常でも食べられる。軽食としてメニューに加えている甘味処も多い。写真は、「初音」で出される溶き卵、海苔、三つ葉入りの「玉子ぞうに」

汁粉

甘いスープ状の小豆あんに、焼いた餅を入れた汁粉はボリューム満点。食後に口の中をすっきりさせるため、シソの実の漬物などの小皿がついてくる