niponica

2020 NO.29

Menu

日本の心を結ぶ

4


技に磨かれた「結び」の美

飾り結び

一本の紐を結ぶことで鍵にもなる。美しい花にもなる。
そしてまた、どんなに複雑に結んでも、ほどけば一つの紐に戻る。飾り結びは、日本人の繊細で洗練された手先の技により、長い歳月をかけて、美しい変身を遂げてきた。
創作的で美しい飾り結びは、12世紀には貴族の女子のたしなみと考えられ、大切な習い事の一つとされていた。この頃は草花をかたどった「花結び」が主流であった。
華やかな花結びの歴史に劇的な変化が訪れたのは、戦国時代(15世紀末から16世紀末)である。当時、茶道を重んじていた武将たちが恐れていたのは、お茶に毒をもられることだった。そこで武将に仕える茶道家たちは、お茶を入れる袋の紐を自分にしかわからない複雑な方法で結ぶようになった。万一ほどくことができても、同じように結びなおすことができないため、袋を開けたことがわかるという仕組みだ。記録を残さない幻の結びは、「封じ結び」とよばれ、たった一本の紐で見事に鍵の役割を果たしたのである。

茶道の茶入れ袋や小物入れの紐は、江戸時代(1603~1868)に
「花結び」本来の美しい技が磨かれていった

美しい飾り結びの姿をしながら、鍵の役割を果たした「封じ結び」

結びの研究家であり、日本の季節や行事を結びで表現するアーティストの関根みゆき氏。
古代の儀式や行事などにおける結びを、古文書などをもとに再現する創作活動を展開している

薬玉とは、お香と薬草を入れた袋に、5色の糸を長く垂らしたもの。写真は、薬玉を組紐で結んで表現した作品

作品はすべて、関根みゆき氏のもの