
2022 NO.32
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召し上がれ、日本
松茸
香り高い
森からの贈り物
写真●新居明子
松茸は、マツ科の樹木の根元に生えるきのこで、日本ではおもにアカマツ林に生える。日本の食卓を賑わすきのこは数多いが、日本人にとって「特別なきのこ」といえば、松茸をおいてほかにない。
その最大の魅力は、マツタケオールという成分による独特の甘い芳香。食において香りを大切にする日本人はみな、秋の旬の出盛りに一度は口にしたいと願う。鮮度が落ちやすく人工栽培もできないため非常に高価であるのも、松茸が憧れの食材となっているゆえんだ。
松茸が古くから珍重されてきたことは、8世紀の歴史書に天皇への献上品としての記述があることからもわかる。江戸時代(1603~1868)には税としても納められた。たとえ松茸が育つ土地の所有者であっても、松茸だけは勝手に売買できないようにするなど、村が生産を厳しく管理したという。
現代の森林の環境変化は、松茸の収穫にもいやおうなく影響を与えている。松茸の宿主であるアカマツは、古来、薪や炭などの燃料に使われてきた。そのためアカマツの森には定期的に人が入って手入れがされ、日当たりと風通しがよい場所を好む松茸に適した環境が整えられていた。それが1970年代以降、燃料が石油に代わって山の手入れがなされなくなり、松茸生産量が減少する一因となった。
和食では、松茸の香りと風味を殺さぬよう、そのまま焼くか、米と炊き込むといったシンプルな調理で味わう。東京・赤坂の松茸専門店「赤坂松葉屋」の代表取締役・宮南譲さんも、とにかく鮮度を保つことが肝心、と言い切る。「時間がたてばたつほど香りとみずみずしさが失われてしまいますが、今は輸送手段が発達し、新鮮なまま届くので助かっています」
かつて松茸を市場に卸す仕事をしていた宮南さんは、「一日、松茸の中で仕事をしていると、身体じゅうに香りがついたものです」と笑う。それほどまでに強い香りが松茸の魅力である。
国土の3分の2を占める森からの恵み。その最高峰は、昔も今も松茸である。そしてその稀少さゆえに、松茸は深く日本人に愛されてきたのだともいえる。
土瓶蒸し
専用の小さな土瓶に松茸やエビなどの具材とだし汁を入れ、蒸してつくる「土瓶蒸し」。うま味と香りが抽出されただし汁を飲みながら、具材を食す。仕上げにスダチなどの柑橘系果実を絞ると、うま味がいっそう引き立つ