
2022 NO.32
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街歩きにっぽん
山々に囲まれた風土を活かし、
工芸の文化を育んできた松本の街には、
澄んだ空気の中に落ちついた時間が流れている。
写真●逢坂 聡、アフロ、PIXTA
高さ約30mの大天守を持つ「松本城」。晴れ渡った日には北アルプスの山並みを背景に美しい景観を見せる
東京の中心地から約2時間半。特急列車の車窓に北アルプスの美しい山並みが見えてきたら、目的地はもうすぐだ。日本列島の中央部に位置する長野県松本。四方を山々に囲まれ、山岳景勝地として名高い上高地を市域に含む。中心部には川が流れ、山々の伏流水による湧水も豊富で、街のあちこちに井戸が見られる。これら自然豊かな環境が、街を包む清冽な空気を生み出している。
交通の便を活かして商業が発達し、古くから栄えた松本の象徴が、16世紀末に築城された国宝「松本城」だ。現存する五層の天守の中では日本最古で、周辺を囲むお濠とともに四季折々の美しい景観を楽しめる。その北側には、19世紀後半に建てられた「旧開智学校校舎」がある。地元の大工が手がけた和洋折衷の建築は日本の近代化の足跡を残す貴重な史跡だ。
良質な木材に恵まれる松本では、江戸時代(1603〜1868)から家具づくりが盛んだった。その後、産業は一時衰退したが、実用的な生活工芸品を守り伝えようとする民芸運動の影響を受け、1940年代に復興。和家具の質実剛健なつくりと洋家具の曲線を基調としたシルエットをひとつにした「松本民芸家具」が生まれた。材となるミズメザクラに丹念にニスや漆を塗り重ねて表現される赤茶色の鈍い輝きは、今も多くの人に愛されている。