2019 NO.28

東京を食べつくす!

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江戸から続く和食の文化

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江戸の技を今に伝える

江戸時代(1603~1868)は庶民が美食に目覚め、さまざまな料理店が登場し、料理が洗練された時代。
今日の東京の食文化の繁栄につながる礎が築かれた。

談話● 原田信男 撮影● 大山裕平 写真● PIXTA

江戸庶民の味を受け継ぐ
天ぷら職人

エビ、キス、かき揚げの3種。かき揚げは、小エビ、イカ、小柱を混ぜて揚げたもの

15歳から三定で修業を始めたという鈴木さん

東京の下町・浅草に店を構える「三定」は1837年創業。日本でもっとも古い天ぷら屋だ。天ぷらは、魚介などに小麦粉を卵と水で溶いた衣につけて油で揚げた料理で、だしが香るつゆで味をつけ、さっくりとした食感を楽しむ。

「衣をしっかりとまとわせるのが、江戸風です」と語るのは店長の鈴木俊さん。庶民好みの食べ応えのある天ぷらが三定の味だ。温度や湿度によって揚がり具合が変わるので、衣の材料の配分は決まっていない。その日の最適な濃度を導き出すのは、職人の腕にかかっているという。

古くからの味を守る一方で、ゴーヤやアボカドといった新しい素材を使った天ぷらの開発にも意欲的に取り組む。伝統と革新の両方に目を配ることが、三定が時代を超えて愛されてきた理由だろう。

一日に揚げるエビの量は数百本

高温を維持するため、真鍮製の巨大な鍋を使う

鮮やかなパフォーマンスを披露する
飴細工師

ツルやトラから、かわいくデフォルメしたウサギや透明なペガサスなど、飴細工のモチーフはさまざま

日本初の専門店「あめ細工吉原」で腕を磨く加藤さん

江戸市中(現在の東京)で飴を売り歩く行商人だったという記録が残る飴細工師。小さくてやわらかい飴の塊から生み出される精巧な造形美は、今も多くの人びとを魅了する。原料の水飴は古来より日本で用いられてきた甘味料。それ自体は透明だが、熱で溶かして空気を入れながら練ることで白濁し、絹のような光沢が生まれてくる。

「見た目の美しさはもちろんですが、飴細工の醍醐味はお客様の目の前で形をつくるパフォーマンス」と語る加藤妹子さん。熱した飴が冷えて固まるまでは約3分。そのわずかな時間で鋏と指先をめまぐるしく動かし、形を整える。つくり直しができないため、手順に迷いは許されない。無駄のない動きはまさに職人芸だ。

ポップなデザインを取り入れたり、レシピを改良したり、時代に合わせた工夫も凝らす。日本の伝統菓子は、これからも進化し続ける。

ツルの製作過程。団子状にして棒に差した飴を、指で伸ばし、鋏で切り込みを入れて翼をつくる

飴の着色にはおもに食紅を用いる