2019 NO.25

日本の漆工芸

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受け継がれる日本のこころ
漆で直す人びと

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古くから修理して使われてきた漆器。漆による修復の仕事に従事するふたりの人物を紹介する。

日用品修復でみえた
漆によってつながるもの

河井 菜摘(かわい なつみ)
修復専門家/漆作家
京都、東京、鳥取の三拠点で漆と金継ぎを主軸とした修復専門家として活動。日用品から古美術品まで800点以上の修復を行う。

漆器は漆の被膜で保護されているので、手入れし、直すことで、世代を越えて使い続けることができる。

漆による修復をメインとした修復専門家として活動している河井菜摘さんもそんな漆の力に魅了された一人だ。河井さんがこの道に足を踏み入れたのは、ものを作る際などに多くのゴミが生まれてしまうという現実に疑問を抱いたから。作り出すのではなく、修理をすることで息を吹き返す漆器は、実に修理し甲斐がある。

「長く大切にされるものだからこそ、何十年も先を見て修理しています。」と河井さんは言う。修理に訪れる依頼主の多くは30年~100年前、古くは150年以上前から受け継いできた品を持ってくることが多く、思い入れもひとしおだ。直し方は依頼主と相談しながら決めているので、単純に経年変化による独特の質感を残すこともある。使い続けられるように、受け継いでいけるように修復を行っていく。

「長年、修復に携わっていると、壊れ方の法則が見えてくるんです。壊れそうなところに対しては、ある程度先に手を打っています。」木も漆も呼吸しているので状態は常に異なるが、修復を通して見る目が養われ、技術が向上していく。漆修理は発見の連続で、苦労を感じた記憶がないのだという。安価な材料が使われているものなどは修理が大変なこともあるが、依頼主の喜ぶ姿にはやりがいも感じる。

「直すことでまた長く付き合える、という安心感はセラピーのような働きをもっているようで、壊れることを含め、物事を前向きに捉えられるテクニックが身に付くみたいです。」

修復を通して、自分にもそれを手に取る人にも変化が生まれる。その変化は、漆器を手にした次の世代にもつながっていく。

左/漆で修理している様子。状態に応じた最適な方法で直していく。
右/割れたところを漆で接着する「割れ直し」という方法で直された掛軸箱。接着後の仕上げに漆が塗られている。