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2019 NO.25
日本の漆工芸

日本の手仕事
~漆器をうみだす職人たち~
分業によりつくられる漆器
漆器は、塗料となる漆をつくり、器の原型をつくり、それに漆を塗ることで完成する。
そのほとんどが分業化された中でつくられており、多くの場合、一つの産地の中で各工程の専門の職人が連携して、一つの漆器を仕上げていく。
ここでは、各工程で名を知られる産地を通して、漆器をうみだす日本の手仕事を紹介したい。
写真:岩手県二戸市漆産業課、金井 元
【漆掻き】
細やかな仕事が、いい漆をつくりだす。
日本産の漆の産地として知られている岩手県二戸市。ここは日本で一番漆掻き職人が多い地域でもある。
漆器の塗料として用いられる漆は、漆掻き職人の手によって採取される。漆掻きは、漆の木に漆掻きカンナなどで横一文字の傷をつけ、傷を治そうと集まってきた樹液を掻き口からヘラを使ってかき集める仕事だ。職人は年間400本もの木を一人で見回りながら漆を集める。
漆掻きは6月~10月下旬まで行われるが、漆は採取時期によって乾き方や含有成分が異なるので、職人は季節ごとに微妙に性質の違う漆を分けながら採取している。例えば、6月~7月に採取する漆は水分が多く乾きが早いので艶上げ用の漆に向いている。ピークの時期は8月で、この月に採取した漆は夏の気候により水分が少なく、ウルシオール(漆の主成分)が最も多く含まれるため、最も品質が高い。天候や植生条件、そして木の回復状態をみて五日程間隔をおいて採取し、10月には木に残った漆を掻き尽して終わる。
このように採取する漆だが、一本の木から1年で200gしか採取できない。職人はより多くの質の良い漆を採るために、木の状態を見極めて、傷をつける場所や間隔を決めているという。
採取した漆は、撹拌して成分を均一にし、水分を蒸発させる工程を経て、精製漆となる。精製後は漆問屋へ納入され、漆を塗る職人の手に渡っていく。

漆が採れるウルシノキ。日本で使用される漆のうち、日本産はわずか3%足らずで、その生産量の約70%を岩手県二戸市の浄法寺漆が占めている。

漆は空気に触れると硬化する性質があるので、漆掻き職人は傷をつけたら瞬時に漆を採取する。