第12話
日曜の中野はごった返している。
巨城のようにそびえる中野ブロードウェイのもと、人々はそれぞれの目的を持って群れ集う。
これだけ人がいるなら、自分のように、見つからない人形のパーツを求めて走り回る人が他にもいるのではないか。もしかすると、その中には人形が一体や二体混じっているかもしれない。
知也は首を振り、つまらない妄想をかき消し、周囲に視線を巡らせた。
知也を呼び出した人物は、すぐ見つかった。
「来てくれるとは思いませんでした」
恵那は困ったように言う。知也もあいまいに笑った。なんとなく来てしまったとしか言いようがない。恵那からメールが来たのが昨日の晩。可奈子が停止してから三日がすぎていた。
「見せたいものって、なに?」
「行きましょう」
恵那は質問に答えず、背を向け歩き出した。
あとについてエスカレーターに乗り、通路を進む。なんとなく行き先が見えてきた。だが、恵那の意図はまだ知れない。
やがて、レンタルショーケースの店に着いた。
恵那は知也を店内にいざなう。そして、目的のケースの前で立ち止まった。「No.56」のラベル。何度も眺めた、恵那のケースだった。
中に、可奈子の腕があった。
「返します」
「どうして……?」
記憶の奥にしまった光景が蘇る。あのとき、恵那は右手を砕いたはずだ。そして可奈子は片腕のまま衰弱し、やがて――。
「あれは偽物でした。可奈子ちゃんの右手に似せて作った、ただの部品。これが本物です」
ライトに照らされ、可奈子の腕は白くつややかに輝いていた。
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
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