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Super Figure Kanako / Shokichiイラスト (C)玉置勉強
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第11話
どうやって部屋に戻ったか、記憶がない。
可奈子はベッドに横たわっている。ときおり意識を取り戻すが、大半は目を閉じていた。顔は生々しく高潮し、額に手を当てると熱かった。
窓の外が明るくなり、やがてまた暗くなった。
自分のあごに触れると、無精ひげの感触があった。空腹も眠気もない。トイレにも行かなかった。ずっと可奈子の横顔を見ていた。
何度目か、可奈子の意識が戻った。
可奈子は胡乱な目つきで天井を見た。明らかに昨晩より衰弱している。
「ごめん」
言うまいと思っていた単語が、知也の口からこぼれた。言っても二人がみじめになるだけだ。それでも、知也はいま言わなければと思った。
可奈子は知也の顔を眺めた。そして、一語ずつ噛みしめるように、
「私に、右手なんかなかったの」
と言った。
可奈子は知也の当惑顔を見ながら、言葉を継ぐ。
「きっと、初めから右手のパーツはなかったの。それでも私は立派にかわいかったし、それなりに楽しかったし」
「でも、右手さえあったら、完成して――」
「知也、もういいよ」
可奈子は笑いを含んだため息をつく。
「あたしの右手は初めからなかったことにして」
言葉には、祈りの文句のような響きがあった。
「だったら、なぜ、右手を探せなんて」
可奈子は棚のフィギュアたちを一瞥すると、目を閉じた。
「それは、希望……」
そのとき、ごう、と強い風が窓を叩いた。

Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan 2008.
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