第6話
部屋に戻ると、可奈子は知也に見事なローキックを見舞った。レジン製とおぼしき可奈子のすねは石みたいな強度で、知也は太ももを押さえて転げまわった。
「私の心はもっと痛い!」
半日におよぶリュック詰めでぐしゃぐしゃの長髪を振り乱し、可奈子は激昂した。
「ごめん、明日はちゃんと探すから!」
可奈子の答えは、あごを撃ち抜くアッパーだった。
帰宅後ものの数分で、知也の部屋は廃墟と化した。今朝がた倒壊した棚に加え、生き残った棚二つも可奈子のレジンのパンチで傷だらけになった。他人が見たら、空爆にでもあったかと疑うだろう。
「明日は、まじめにやってよね」
「分かった。だから、これ以上壊さないで」
言って、知也は脱力し、大の字になった。木片がごりごりして背中が痛いが、体を動かす気にもならない。つくづく自分はお人よしだと思う。わけの分からない人形に付き合い、一日を無駄にし、あまつさえ部屋は空爆だ。目を閉じると、軽い頭痛がした。
「片腕じゃあ、ダメなの」
言ってから、しまったと思った。
恐る恐る、可奈子の表情をうかがう。
父親に後ろから刺されたような顔をしていた。可奈子はなにか言おうと口を開き、やはり閉じ、そんな逡巡を何度か繰り返し、ようやく言葉を搾り出した。
「ダメ」
「ごめん」
「絶対に、ダメ」
「ちゃんと探すから。悪かったよ」
可奈子はなにも答えず、そっぽを向いた。床に転がったなにかを拾い、妙な手遊びを始める。
いっそ別の部屋に駆けこみたいが、六畳一間に逃げ場はない。知也は寝返りを打ち、可奈子と反対を向き、目を閉じる。
可奈子の背中の代わりに、自己嫌悪が浮かんで見えた。
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
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