第1話
塗料の匂いがする自室で目が覚めた。
三方を作業机と棚に囲まれた、狭く薄暗い六畳一間のアパート。
時計はすでに午前十時を指している。
着替えて、なにか食べて、大学に行く。
高橋知也はベッドから起きあがった。
それを、棚に並んだ無数のフィギュアたちが見つめている。遊びに来た友人からは「落ちつかない」と何度も言われたが、気にならない。
クローゼットの取っ手を握り、思い切り引っ張った。安アパートだけに、このクローゼットは初めからたてつけが悪い。
扉が開く。
女の子がいた。
少女は膝を抱え、知也を見上げている。非常識なほど大きな目に、大粒の涙が浮かんでいた。
狙ったかのようなタイミングで、目覚まし時計が「ぴぴぴ」と鳴き出す。
「その、ええと、ごめん、ノック忘れた」
知也はわけの分からないことを口走った。
瞬間、女の子の顔が歪んだ。
ぶん殴られた。
こぶしが固かった。
「すっごい暗いし！ 寒かった！」
知也は狭い自室の隅まで吹っ飛び、ひっくり返った。
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
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