第10話
肌を切り裂くような冷たい風が吹いていた。
ぐったりした可奈子をリュックに入れ、知也は全速力で自転車をこいだ。心臓はかつてないほど強烈に鼓動した。
やがて、見慣れたビルのシルエットが前方に浮かび上がってきた。
![photo](images/l_talc080222.jpg)
投げ捨てるように自転車を降り、入口に走る。すでに深夜零時をまわっている。シャッターは下りているだろう。こじ開けてでも入ってやる。
だが、知也の足はビルを前にしてゆっくり減速し、やがて止まった。
ビルの入り口に、恵那がいた。
「ずっとメールの返信ないから。ここかな、って思って」
恵那は言い訳をするように一人ごちたが、目は知也と背中のリュックを見すえていた。
とっさには言葉が出ない。こんな深夜に、こんなところで、来るかどうかもわからない知也を待つなど、尋常ではない。
「ごめん、急いでるんだ」
今は恵那にかまう余裕はない。一刻も早く、腕を探さなければ。
恵那の横を通りすぎ、すこししてから、恵那がなにかを持っていたことに気づいた。
「これですか?」
恵那は薄く笑い、手の中のものを振ってみせた。可奈子の腕につけたら、さぞぴったり合うであろう、右手のパーツが握られている。
「どうして、君が……?」
「たまたま見つけました」
知也はパーツに引き寄せられるように、ふらふらと恵那に向かっていく。
「よらないで」
恵那の瞳には、敵意があった。
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
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