第8話
恵那はどこに行くにもついてきた。
可奈子の右腕探しにもついてくるので、成果のあがらない探索は、さらに暗澹とした。右腕探しを始めて、いつの間にか二週間にもなる。
「悪いけど、ちょっとだけ、いいかな」
「いいよ別に。まだ時間あるし」
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可奈子にささやき、恵那とのデートに時間を割く、そんなことが多くなった。二十年の人生で初彼女。知也は有頂天だった。可奈子に恩は感じているが、正直なところ、右腕探しに時間を使うのが惜しい。
今日も可奈子を足元に放置したまま、恵那との時間がすぎていった。喫茶店を出て、無人の廊下を歩く。背中のリュックの重みが、三割増しぐらいに感じた。自分への言い訳のため、あちこち視線を向けて右腕を探すふりをした。
恵那はそんな知也を眺め、
「なにを探してるんですか?」
当然の疑問だったが、フィギュアの少女の右腕を探してますと言えるわけがない。
「いや、べつに探してるわけじゃないんだ」
リュックがもぞりと動いた。
「違うんですか? なんかいつもきょろきょろしてますけど」
リュックの揺れが大きくなった。あわてて腕を後ろに回しリュックを押さえるが、なかなか静まってくれない。
「そう見える? 変かな?」
リュックは大地震のように揺れた。知也の体もつられて右へ左へ揺さぶられる。
「変じゃないけど、どうしたんですか? そのリュック、動いてません?」
やがて限界が来た。
がば、とリュックが開き、可奈子の顔が飛び出した。
「邪魔なら邪魔って言えばいいじゃない!」
やってしまった。
知也は膝をつき、「ああ」とうめき声を漏らした。
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
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