第8話
「そっか、大変ですね」
知也の話を聞き、恵那はそう締めくくった。むろん驚きもしたし話の最中でさまざまな質問を投げてきたが、喋って動くフィギュアを目の当たりにしたことを考えれば、落ち着きすぎているくらいだ。
「べつに。むしろ、ずっと盗み聞きしてて悪かったわね」
可奈子は仏頂面で謝罪したが、リュックから顔だけ出している状態では様にならない。恵那はその様子を見てくすりと笑い、
![Illustration](images/l_tald080219.jpg)
「気にしてませんから。腕、見つかるといいですね」
ふん、と可奈子は鼻息をつき、リュックに潜りこんでしまった。恵那とはそりが合わないらしい。
「なんか、ごめん」
「いえ、ぜんぜん」
知也はリュックを背負いなおし、恵那と並んで歩き始めた。
恵那に理解があって、とりあえずほっとしていた。
「あの」
恵那が近寄ってきた。耳元に口を寄せ、知也にだけ聞こえる音量で、
「知也さんは、可奈子ちゃんを完璧なフィギュアにして、どうしたいんですか」
恵那の表情に影はなかった。ただ気になったから訊いた。少なくとも知也にはそう見えた。だが、なんとなく後ろ暗い気分になり、救いを求めるように周囲を見渡した。無表情なシャッターと小うるさいCD屋しかなかった。
「ごめん、正直、あまり考えてなかった」
中野ブロードウェイを出ると、恵那は「そっか」とだけ答え、くるりときびすを返した。
「さよなら。また会いましょう」
去っていく恵那の背中に手を振り、知也も帰途に着いた。
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
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