第4話
「店長、ちょっと聞いてもいいすか」
「予約モノの入荷ならまだだよ」
店長はスポーツ紙から顔を上げ、けだるそうに答える。
東鳳堂。
中野ブロードウェイのフィギュアショップであり、知也の行きつけの店だ。店内には新旧のフィギュアやカプセル自販機が所狭しと並んでいるが、特段の経営ポリシーやこだわりがある風にも見えず、いつもそこそこの客しか入らない。
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「いや、今は探し物なんです」
「レア物でも探してるの? うちの店より、ネット使ったほうが早いよ。オークションとか」
「探し物っていうより落し物なんです。カプセルフィギュアを一個。真っ黒いやつなんですけど」
知也の声はしだいに小さくなっていく。
店長は無精ひげを手でぞりぞりとなぞり、
「知也くん、この中野ブロードウェイで、一日に何個、カプセルフィギュアが売れると思う」
「難しいのは分かってます。もう捨てられちゃったかもしれないし」
背中のリュックがもぞもぞ動いた。どうやら不満だったらしい。
「どうかした?」
「いえ、なんでも」
リュックを両肘でむりやり挟み、動きを牽制する。こんなところで見つかるわけにいかない。
「ところで、話変わるんですけど」
「うん?」
「自分で歩いたり喋ったりするフィギュアって、ないですよね」
「間接稼動式のアクションフィギュアならいくらでもあるけど、自律式のフィギュアは聞いたことないね。無線で動くフィギュアは売ってるけど、ああなるとむしろロボットだし」
「女の子の格好で、なめらかに動いて会話ができるフィギュアは? どこかで秘密裏に開発されてるとか」
「僕がじいさん、君がおっさんになるころには発売されるかもね。需要はあるだろうからな」
背中のリュックは動くどころか暴れだしている。限界だった。知也は「そうですよね」と苦笑し、逃げるように店を出た。
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
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