第4話
「なにつまんないこと訊いてるの」
リュックが不平を言った。
「しっ! 聞こえたらまずいよ」
首をめぐらせ、リュックに注意を促した。
通行人が気味悪そうに歩き去っていく。
数十分前。右腕は探すからおとなしく家で待てという知也と、絶対についていくと主張する可奈子の舌戦があった。両者一歩も譲らず、最後は可奈子が窓を開け、大声で叫んだ。
「ご近所のみなさーん! 誘拐犯です助けてー!」
結局、知也のリュックに可奈子を詰めて連れて行くことになった。
「今度は聞きこみしようか」
知也の恐怖などどこ吹く風、可奈子は右腕探しに精力的だった。
だが、中野ブロードウェイは広い。
迷路のような階段や通路をくまなく探し、フィギュアショップの空きカプセル入れを漁り、果てはトイレまで見てまわった。
可奈子の体重と徒労感が両肩に重くのしかかってきたころには、夕方になっていた。結局、大学も行けずじまいだ。
「ねえ、あそこは?」
可奈子がリュックの隙間から指さす先には、レンタルショーケースがあった。
店の照明の下で、透明アクリル製の立方体ショーケースが数十個も輝いている。ケースには一つ一つラベルが貼られ、フィギュアやポストカード、アクセサリーなどが詰められている。この店では、ケース一個を月額いくらで個人レンタルすることができる。出品者は趣味のあれこれを自分のケースに入れ、店に販売を委託する。自分の趣味を他者と共有し、いくばくかの報酬を得るという変わった店だ。
知也はリュックをケースにぶつけないよう気を配りながら、店内に入った。そして、すぐ足を止めた。
「どうしたの」
「いや、ちょっと」
不満げなリュックをあやし、知也は「No.56」とラベリングされたケースに見入った。
じつは昨日もここに来た。
「No.56」は知也のお気に入りのケースだった。内部には、手製と見えるオリジナルのフィギュアがいくつか陳列されている。うまく言えないが、地味だがとてもセンスがあると思う。何度か商品を購入したこともある。
足音を感じ、知也は振り向いた。
となりに女の子が立っていた。
知也と同じか、少し下くらいの年齢だろう。
通行の邪魔になっているのかと思い、知也はリュックの位置をずらし道を空けたが、女の子はその場を動かない。
知也が不審に思い、なにか用かと訊ねようとしたとき、女の子は素っ頓狂な声を出した。
「あの、あの、いらっしゃいませっ」
店員のようには見えなかったが、女の子は知也に最敬礼した。
顔が真っ赤だった。
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
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