第6話
「人間には、分かんないよね」
聞こえるか聞こえないかの小さなつぶやきだった。振り向くと、可奈子の手には恵那がくれたカプセルフィギュアがあった。赤子を触るような手つきでカプセルを開け、可奈子はフィギュアと見つめあっている。
そのフィギュアは、恵那に「ゴミ」のレッテルを貼られたものだった。
捨てちゃってもいいですよ。
![Illustration](images/l_talc080215.jpg)
ダブっただけで不要になるなら、未完成の可奈子もまた、紛れもない「ゴミ」だった。
知也はもう一度目を閉じた。暖房もつけないままの室内は寒いが、そのまま寝るつもりだった。頭の中で可奈子の右腕が転がっていそうな場所を模索しながら、眠りについた。
目が覚めると、可奈子はまだ起きていなかった。人形も眠るらしい。
知也はそろそろと部屋を横断し、シャワーを浴び、着替え、適当に食事を済ませた。可奈子はものを食べるのか分からなかったが、とりあえずオムレツを作って冷蔵庫にしまっておく。
今日も可奈子の腕を探しに行く。知也は静かに残骸を探り、いつものリュックを見つけ出した。
見ると、リュックには、丸い大穴が三つ開いている。
「知也、おはよう」
目をこすりながら、可奈子が妙なタイミングで身を起こした。
「なに、これ」
「え? ああ、ずっと丸まって中にいるの疲れるから。リュックに入って、穴から手足だけ出しておけば楽でしょ。左手と、両足」
可奈子は三つの穴を順番に指差した。自分が背負っているリュックから、小さな手足がつんつん突き出している様を想像する。
「ホラーだ!」
「アートよ」
言いながらも、可奈子は半笑いだった。どうやら仕返しらしい。
「早く出かける用意して。時間がもったいない」
「その前に、新しいリュック、買わせてくれ」
Copyright (C) Shokichi/Web Japan, English translation (C) John Brennan
2008.
Edited by Japan Echo Inc.
Edited by Japan Echo Inc.