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2024 NO.36

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日本で「書く」を究める

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マンガ家の愛用道具

日本のマンガは、どんな道具から生み出されているのだろう。
プロの愛用道具と制作過程から見てみよう。

写真●栗原 論 協力●ワコム

鉛筆で下書きをするマンガ家の田中てこさん。文具とデジタル機器を組み合わせてマンガを描く

世界中に読者がいる日本のマンガ。近年は、その描き手である作家の過半数が、デジタル機器だけで作品を描いているといわれる。そのいっぽうで、昔ながらに下書きから仕上げまでの全工程をペンと紙、インクで描き上げる紙に書く派も健在で、さらには文具とデジタル機器を組み合わせるハイブリッド派も少なからず存在する。

昔も今も、日本のマンガ家が愛用する道具といえば、ペン軸にペン先を挿して描く「つけペン」だ。鉛筆などの下書きをインクでなぞる本番作業「ペン入れ」の際に欠かせない。中でも「Gペン」という名のペン先は、割れ目が深くて開きやすく、筆圧の加減で線の太さを調節できるため、キャラクターの主線(輪郭)に使われることが多い。また、瞳や毛髪、背景といった細く精巧な線を描く用途には「丸ペン」というペン先が適するとされる。いずれにせよ、キャラクターに魂を込めるには手書きでなければと思う作家たちは、アナログな文具にこだわり、自分の好みに合ったペン先やペン軸、鉛筆、インクを厳選して使っている。

パソコンにつないだ液晶画面に、デジタルペンで直接描ける「液晶ペンタブレット」の登場は、マンガ表現に新しい道を拓いた。紙とペンのような感覚で線を引いたり色を塗ったりすることが可能で、ペンは筆圧も感知する。色は何億通りもある表示色から選び放題で、写真を取りこんだり地紋をつけたりといった背景の加工も瞬時にできる。

物語のプロット作成に始まり仕上げに至るまで、マンガをつくりあげる作業は、並大抵のことではない。文具とデジタル機器、それぞれの利点を活かしながら、これからも日本のマンガは発展しつづけていくだろう。

田中てこさんがカラー絵を描く手順を追ってみよう。印刷した際に写らないよう、青い芯(1)のシャープペンシル(2)で下絵を描き、さらに鉛筆(3)でなぞる(4)

主線を描く「ペン入れ」の工程。Gペン(5)と丸ペン(6)のペン先をペン軸に挿し込み、インク(7)をつけて輪郭を描く(8)。ペン先は表現したい線の太さによって使い分ける。手書きはやり直しがきかないので緊張の一瞬

色塗りは液晶ペンタブレット(9)で行う。手書きでペン入れした画像をスキャナで読み込み、デジタルペンで着色(10)。色はカラーパレットから自由に選べて、ブラシツールで「ぼかし」などの効果を加えるのも簡単(11)

鮮やかなカラー絵が完成

田中てこさんの作品『放課後×ポニーテール』
(マーガレットコミックス、集英社)

手書きとデジタル、それぞれのよさ

デジタルデータは共有が簡単ですし、失敗してもやり直せる安心感があります。片や手書きはやり直しがきかないぶん、線に緊張感と迫力が出るように思います。どちらの道具にせよ、使いこなせるようになるには、とにかくたくさん描くことが大事です。
(お話を聞いた人 漫画家・田中てこさん)

©Teko Tanaka 2024