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2013 No.10
召し上がれ、日本
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カツオのたたき
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日本風魚のレアステーキ
写真● 新居明子 撮影協力● 祢保希
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高知県は、暖流の黒潮が流れる太平洋に面した、漁業の盛んな土地である。特にカツオ漁で知られ、消費量も日本一といわれる。その高知県で生まれたカツオ料理が、「カツオのたたき」だ。
一般に、「たたき」は、生魚を包丁でたたいてミンチ状にし、シソなどの薬味と混ぜた調理方法をさす。だが、「カツオのたたき」は、それとはまったく違う。まず、内臓を取り除き、三枚におろしたカツオの皮目を、ワラや炭火で炙り、まんべんなく焼き目をつける。そして切り身にしたものに、粗塩、あるいはポン酢(醤油と柑橘類の果汁を混ぜたもの)をふり、包丁の背や手で軽くたたいてなじませるのだ。「カツオのたたき」の名前は、この調味料でカツオをたたくという作業に由来している。ニンニクの薄切りを添え、ポン酢をつけて食べるのが一般的だが、最近では、代わりにショウガを添えたり、マヨネーズをつける食べ方もある。
この料理の起源については諸説ある。17世紀初頭、土佐藩(高知県)の藩主・山内一豊が、食中毒防止のために刺し身を禁じ、庶民が表面だけを炙り「焼き魚」と偽って食べたのが始まりという説、明治時代の開始(1868年)以降に西洋人向けとしてステーキ風に焼いて出したのが始まりという説などだ。
東京・赤坂にある土佐料理の専門店では、伝統漁法の一本釣りで獲ったカツオを使う。魚体を傷つけないので、新鮮で身がしまったカツオを提供することができるという。カツオは春と秋、一年に2度、旬がある。春の暖流に乗って北上するカツオは脂が少なめでさっぱりとした味で、秋の寒流に乗って南下するカツオは脂がのって濃厚な味だ。それぞれの旬で味わいが違うカツオのたたきを楽しめるのだ。
焼いた後のカツオを氷水で冷やす、皮目をあぶるだけで調味料でたたかないといった調理方法もあるが、総調理長の成宮健司さんは「皮目に温かさが残っている状態で食すのが、高知らしい食べ方。粗塩も味がしまるので欠かせない」と言う。
そうして調理された「カツオのたたき」は、パリッと香ばしく焼けた皮目は温かく、身は冷たくもっちりした弾力があって、さながらレアステーキのような味わいだ。
高知の郷土料理だった「たたき」は、今やどこの飲食店やスーパーマーケットでも見かけるようになった。レアステーキのような食感に、ポン酢の爽やかさとニンニクの辛みが混ざり合い、互いの味を引き立てる。現代人の味覚にも合うその味わいが、人気を全国区に押し上げたのかもしれない。