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2013 No.10
これが、ジャパン・クオリティ
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最新医療で病に挑む
人々が健康で安心して暮らせる社会をめざす日本の医療が、
今、世界へ広がりはじめている。
医療機器と技術の両面から、日本の医療の最前線にせまった。
体にやさしい日本の医療機器
「ものづくり大国日本」の技術は、医療の分野でも世界最先端の機器を生み出している。革新的な技術を使いながら、 体にやさしく安全で、しかも手軽。 創意工夫にあふれた、日本の医療機器を紹介する。
動脈硬化治療の切り札、生体吸収性ステント
動脈が細くなり、血流が悪くなることで、脳梗塞や心筋梗塞など重大な病気の原因ともなる動脈硬化。その治療法として、1980年代、細くなった動脈を内側から広げる網目状のチューブ(ステント)が開発された。
現在のステントは金属製が主だが、金属は血管に刺激を与え続けるため、動脈硬化の再発を招くことが多い。そこで開発されたのが、体内で分解され、吸収される素材でつくられた生体吸収性ステントである。血管に植え込まれてから半年以上強度を保ち、2~3年でゆっくり分解吸収される画期的なものだ。金属製ステントと異なり異物として体内に残らず、同じ患部で再治療が可能で、さらにステントに治療用の薬剤を含ませやすい点も優れている。
現在、下肢動脈用の生体吸収性ステントがヨーロッパで発売中である。
「ふつうの生活」をもたらす次世代型補助人工心臓
日本で心臓移植を待つ心臓病患者は250人を超えるというが、移植手術までの間をつなぐ補助人工心臓が、日本で進化を遂げている。東京女子医科大学心臓血管外科の山崎健二主任教授が中心となって開発した、体内にポンプを取り付ける次世代型補助人工心臓「エバハート」だ。機能が衰えた心臓の左心室にポンプをつないで、血液を大動脈に送り込み、小さなバッテリーと駆動装置は体の外にあるしくみだ。
これまでの補助人工心臓では、患者はポンプの安定性などの問題から、長期入院を余儀なくされていた。しかし、エバハートは、羽根車の回転を利用するポンプの安定性・耐久性の高さ、そして血栓を生じさせにくくする精密加工技術が特長。患者は長期入院の必要がなく、ふつうの生活を送ることができるのだ。
睡眠の状態がはかれる睡眠計
昨今は睡眠に悩みを持つ人が多い。そこで、家庭で睡眠を分析し、健康管理に役立てたいと開発されたのが、マット型センサーの睡眠計だ。医療機関の睡眠検査に匹敵する精度で、睡眠時間はもちろん、簡単に睡眠の状態をはかることができる。
使い方は、寝具の下に機器を敷くだけ。電源を入れて寝るだけで、就寝中の体動、呼吸、脈拍が自動的に記録される。記録はPCで確認。睡眠の深さやリズムなどを解析してわかりやすく表示するので、自分の睡眠傾向がひと目でわかるのだ。精密な計測技術が、健康管理を身近なものにしてくれた。
精密な技術が生んだ、痛くない注射針
注射の痛さは、針の太さが主な原因だ。2005年に日本の会社によって発売された世界一細い注射針は、痛くない注射針として世界を驚かせた。予防接種などで使われる注射針の直径は0.4㎜だが、この注射針の直径は0.2㎜。直径にして約2分の1、面積にすれば4分の1である。内径は0.08㎜、この穴を通って薬液が注入される。
細い針の中を薬液がスムーズに通るようにするため、針の先端は細く、根元は太く設計されている。それを可能にしたのは、金属板を丸めて円筒にする精密なプレス加工技術。2012年には、さらに細い直径0.18㎜の注射針も開発され、日常的に注射針を使わなければならない糖尿病患者の負担は大幅に軽くなった。
血管の様子までわかる血圧計
老化したり、コレステロールなどの物質がたまったりすることで、血管の柔軟さが失われる動脈硬化は、脳梗塞や心筋梗塞の遠因ともなる。最近では電子血圧計を持つ家庭が増えたが、動脈硬化も血圧と同じくらい手軽に測れるようになった。
理化学研究所と産業技術総合研究所の協力のもと、志成データムが2011年に発売したのは、2分ほどの測定時間で血管の状態が計れる電子血圧計。上腕に巻くバンド1箇所だけで、上腕の動脈ばかりでなく、体の中心にある大動脈の弾力性まで測れる。動脈硬化の予防に役立ち、ますます健康管理への意識が高まりそうだ。