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2013 No.10
これが、ジャパン・クオリティ
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おいしいを守る
人の体に悪影響を及ぼすとされる農薬や放射性物質、食中毒をひきおこす細菌や微生物。食の安全をおびやかすこれらの問題に立ち向かう、日本の取り組みとは。
写真● 名取和久、村上圭一 写真提供● 福島県
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7haの田んぼで、1400羽のヒナが元気に泳ぐ
アイガモが育む安心でおいしい米
農薬に頼らない有機農業については、日本でもさまざまな取り組みがされてきたが、特においしくて安全なコメづくりは、日本人の長年の夢であり課題だった。
東京から飛行機で約2時間。九州北部の福岡県桂川町では、緑あざやかな初夏の田園風景の中に珍しい光景が見られる。かわいらしい水鳥が元気いっぱいに田んぼを泳ぎまわっているのだ。さかんに雑草や虫をついばむのは、アイガモたち。長年有機農業に取り組み、20年以上前にアイガモ農法を確立させた第一人者、古野隆雄さんの田んぼだ。
有機農業は手間ひまがかかり、たくさんの量を安定して収穫するのが難しい。特に、大きな面積で行われる稲作では、雑草や害虫の駆除が問題となる。そこで古野さんがたどり着いたのが、アイガモ農法だった。
いろいろな動植物を育む力を持つ田畑に雑草や害虫が発生せるのは、自然なことだ。「稲とアイガモを同時に育てたら、稲作の敵だった雑草や害虫はえさに変わり、フンは養分になります。アイガモ農法では田んぼの生態系が多様化し、生産力が上がるのです」(古野さん)
古野さんの農業の原点は「自分や家族のために安全でおいしいものをつくる」ことだという。そして、同じものを消費者にも届けるという気持ちで農業に取り組む。
アイガモ農法は今や、日本だけでなく、同じように稲作を行う中国やフィリピン、インドなど、アジアの広範囲に広まりつつある。「いろいろな地域で取り組んだ結果をお互いに教え合うことで、アイガモ農法がアジアの共通技術として広がっていけばいいなと思っています」(古野さん)。
食の復興をめざす福島の取り組み
「ふくしま新発売。」主催のサクランボ狩りツアー。モニタリング結果も「ふくしま新発売。」サイトで公開している。
http://www.new-fukushima.jp/monitoring/en/
福島県は、南北に連なる高地と山脈が生み出す多様な気候により、食に恵まれた豊かな土地だ。コメをはじめ、キュウリ、トマトなどの野菜、モモ、ナシ、リンゴなどの果物まで、福島の特産物は幅広い。
現在、福島県は、2011年の福島第一原子力発電所の事故を受け、放射性物質モニタリング調査を行っている。国の定める一般食品の放射性セシウムの基準値は100ベクレル。コメは自家消費分を含め全量が検査対象だ。農作物は出荷販売するものを対象に行われ、検査する農業総合センターに持ち込まれた当日、または翌日に出荷判断できるよう体制が整えられている。基準値を超えた場合は、その畑から収穫予定のものも含めてすべて廃棄されるので、市場に出ることはない。調査を行っている福島県農林水産部によると、事故直後はフォールアウト(空中に吹き上げられた放射性物質が地上に降下すること)の影響を受け、当時栽培されていた農産物から暫定規制値を超える値が検出されたというが、その後に栽培された農産物は基準値以下で安定しているという。
福島県はこうした取と組みと現状を知ってもらおうと、「ふくしま新発売。」プロジェクトを立ち上げた。モニタリング結果をホームページで公開し、モニタリング検査の見学会を実施したり、サクランボ狩りやコメの収穫を体験してもらうツアーを開催したりしている。主催する農林水産部は、「ぜひ、福島に来て、見て、感じていただきたい」と話す。
おいしく、安全な福島の食を復興させるために、これからも福島県の取り組みは続く。
伝統の食材を生かした技術で食べ物を守る
日本特産のワサビは、鼻にツンとくる独特の芳香と辛みを持つ香辛料だ。高い抗菌力があることから、冷蔵技術が発達していなかったころ、食中毒を防ぐために刺し身などの薬味にしたり、餅のカビを防ぐためにいっしょに保存したりと利用されてきた。この知恵を生かした抗菌剤が、「ワサオーロTM」だ。抗菌主体はワサビなどの辛み成分であるアリルカラシ油で、これを含ませたプラスチックシートが、お弁当のフィルムやおかずの仕切りに入れるバラン(葉を模した飾り)など、さまざまな形で使われている。伝統の食材は、形を変え、今も食の安全に役立てられている。