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2019 NO.26
召し上がれ、日本

湯豆腐懐石
季節を味わう、もてなしの料理
文:石塚登喜衛 写真:南禅寺 順正
豆腐とは、大豆の絞り汁である豆乳をにがり(凝固剤)で固めたもの。清らかで豊かな大豆の香りと滑らかな舌触りから日本人に愛され、タンパク質、ビタミン、ミネラルなど栄養価も高いことから、現代では健康食品としても注目されている。
湯豆腐は、昆布を入れた湯で豆腐を温め、醤油ベースのつゆと少々の薬味で食べるのが基本の料理。シンプルな料理ゆえに、豆腐の美味しさを最大限に味わえる。地域や店によっては、ぽん酢しょうゆを使ったり、ねぎやかつおぶし、大根おろしを加えたりとつゆや薬味に好みがわかれる。
仏教の戒律に基づき禅宗の修行僧が食べる精進料理に始まるといわれ、今でも京都の南禅寺周辺の禅寺などでは庭園を眺めながら湯豆腐を食べるお店が多い。水の良い京都は、発達した仏教文化とともに豆腐料理が好まれる土地柄であった。豊富な魚介類がタンパク源としてあった江戸(現在の東京)に比べ、京都が山国であったことも豆腐が大切にされた理由かもしれない。
湯豆腐懐石は、茶会での食事である懐石を湯豆腐に応用したもの。懐石は客をもてなし、茶をおいしく味わうための和食のコース料理が提供されるが、湯豆腐懐石では、湯豆腐をメインとして、味噌を付けた「豆腐田楽」など、さまざまな豆腐料理を味わうことができる。彩り溢れる季節の食材を楽しみながら、目の前に広がる表情豊かな美しい庭園を眺める。その静かな時間は、心までもを満たしてくれるに違いない。