2019 NO.26

ようこそ、日本の庭へ

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日本庭園 様式の変遷

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12世紀~
禅宗庭園

龍安寺(京都府)代表的な枯山水庭園。

平安時代に続く鎌倉時代(1185 ~ 1333 年)は、武士の勃興と禅宗と呼ばれる仏教の宗派の影響を受けた時代でした。住居や庭園の様式にも変化がもたらされました。武士階級は、たとえ上層の者でも、庭園できらびやかな式典を行う慣習がありませんでした。

日本庭園は次の室町時代(1333 ~1568 年)に一つの黄金期を迎えます。山水川原の者と呼ばれる熟練した職人群が枯山水という新様式の庭園創出を担ったのです。これらの庭園は禅宗の強い影響を受け、徹底した抽象化が特徴です。石組みが山や滝を表わし、白砂が流れの代わりに用いられました。このような形式の庭園は世界のどこにも見られません。

さらに、この時代の庭園は書院造という建築の影響も大きく受けました。書院造は、今なお伝統的日本家屋の原型となっています。この建物内から眺める庭園は、書院造の一室である書院に座した鑑賞者の目にあたかも一幅の名画のように映じ、おのずと見る者の注視を誘うように構成されています。

16 世紀~
茶庭

仙洞御所(京都府)の茶亭

入口から茶室へとつなぐ規則的に並んだ飛石。

照明や装飾物として庭園内に置かれる石燈籠。

庭園に草花を植える植栽によって、庭園は視覚的に豊かさを増す。

茶庭は、静謐な精神性が盛り込まれ、茶人の千利休(1522 ~ 91 年)によって完成された茶の文化と関連して発達しました。茶庭は人工を排してごく自然な外観を保つようつくられており、ここを通って茶室に向かいます。今日の日本庭園は、飛石や石燈籠、植栽あるいは蹲踞など、茶庭から受け継いだ多くの要素を取り入れています。客が茶を供される簡素な設計の茶亭も、茶庭に起源を持つものです。

17 世紀~
回遊式庭園

水前寺成趣園(熊本県)回遊式庭園。

日本庭園が何世紀にもわたって築き上げてきたさまざまな形式は、江戸時代(1600 ~ 1868 年)、回遊式庭園に集大成されました。有名な景勝を小型化して再現するのに名石・銘木が用いられました。人々は広大な池を愛でながら、その周りを巡り、次々現れる変化に富んだ四季の景色を楽しんだのです。江戸時代初期の作である京都の桂離宮庭園は典型的な回遊式庭園で、中央に池があり、それを取り囲むようにいくつか茶屋が配置されています。いわゆる日本の三名園(茨城県水戸市の偕楽園・石川県金沢市の兼六園・岡山県岡山市の後楽園)や熊本県の水前寺成趣園などは封建領主たちがつくり出した回遊式庭園です。

明治時代(1868 ~ 1912 年)初め、西欧の影響は伝統的日本庭園の設計にも及び、広い芝生のある空間を取り入れるようになりました。東京の新宿御苑がその一例です。

現代

広い芝生のある新宿御苑(東京都)



尼﨑博正(あまさき ひろまさ)

日本の造園学者、作庭家、京都造形芸術大学教授。 1992年、日本造園学会賞受賞。京都芸術短期大学学長、京都造形芸術大学副学長を経て、現在、日本庭園・歴史遺産研究センター名誉所長。

写真提供:奈良市観光協会、京都文化博物館、Leemu、ふくいのりすけ、shalion/PIXTA(ピクスタ)、首藤光一/アフロ、出水神社、環境省 新宿御苑管理事務所