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2017 No.21
ニッポンのPOP最前線!

現実と虚構の境界
アニメの聖地はファンの心の中に
文:柿崎俊道

アニメ『Wake Up, Girls!』キービジュアル。新しいストーリーが2017年に放送される予定だ
© Green Leaves / Wake Up, Girls!2製作委員会 © Green Leaves / Wake Up, Girls!3製作委員会
アイドルを題材にしたアニメ作品『Wake Up, Girls!』のファンにとって実在する東北地方の都市「仙台」という街そのものがフィクションの世界である。アニメ世界と現実世界の融合を目指したこの稀有な作品は、できるだけ現実の仙台を劇中に取り込むことに腐心した。木町通の老舗和菓子屋「熊谷屋」は主人公のひとり林田藍里の実家という設定。外観や店内がそっくりなのは言うまでもなく、さらに藍里の父親として登場するアニメキャラクターの姿は「熊谷屋」の店主そのままという徹底ぶり。店を訪れたファンからは「娘さんはいますか?」とよく質問されると店主は笑う。
「聖地巡礼」の楽しみのひとつは、現実と虚構の往来である。アニメやマンガの舞台になった街や山、森に足を運ぶ。現実の風景を目にしながらも、心は作品世界に飛んでいる。たとえば、駅と商業施設を繋ぐ空中回廊・ペデストリアンデッキを現実の目で見る。完成した当初こそ、規則正しく並べられた床のタイルや曲線を描く手すりは都会的で未来的に感じられた様式だが、日常の中に埋没し、現実の世界では特に注意を向ける者もいない。しかし現実の街を舞台にしたアニメ作品は、住民が繰り返す倦んだ日常に、ひらりとベールを重ねる。ぺデストリアンデッキを心の目で見れば、アニメ制作者が知恵を絞って作り上げた美少女があらわれ、目の前を走り去っていく。彼女が触れた手すりにそっと手を合わせれば、ほのかに熱があるように感じられる。飽きるほど繰り返し目にしていた光景に新たな物語が加わり、新しい意味を重ねる。
仙台に『Wake Up, Girls!』という物語が覆い被さる。ファンは木町通、ライブハウス、定禅寺通にアイドルたちの影を探す。彼らが目にする仙台は、心の目で見た仙台である。日常がフィクションへと変貌する。現実と虚構に境界がないことを日本中にあるアニメの舞台は僕らに訴え続けている。
Wake Up, Girls!とは
Wake Up, Girls!はアイドルアニメ『Wake Up, Girls!』から派生した声優ユニット。アニメ作中では、仙台で暮らす7人の少女たちがアイドルグループWake Up, Girls!を結成し、互いに切磋琢磨しながらトップアイドルを目指していく姿が描かれているが、作中でWake Up, Girls!のキャラクターを演じる7人のキャスト(吉岡茉祐、永野愛理、田中美海、青山吉能、山下七海、奥野香耶、高木美佑)は、現実世界でも声優ユニットWake Up, Girls!としてアーティスト活動をしている。
© Green Leaves / Wake Up, Girls!2製作委員会 © Green Leaves / Wake Up, Girls!3製作委員会

柿崎俊道
聖地巡礼プロデューサー。株式会社聖地会議 代表取締役。聖地巡礼・コンテンツツーリズムの専門誌「聖地会議」を発行。また、埼玉県のアニメイベント「アニ玉祭」をはじめ、地域発イベント企画やオリジナルグッズ開発をプロデュース。主な著書に『聖地巡礼 アニメ・マンガ12ヶ所めぐり』(2005年刊行)がある。