2017 No.21

ニッポンのPOP最前線!

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傾奇者たち
A New Style for JAPAN POP Artists

古くから受け継がれてきた伝統を尊ぶ日本の芸能文化には、時折、その形式や様式美に真っ向から立ち向かい、誰もが思いもよらぬ斬新さで新たな風を吹き込む人物が現れる。江戸時代(1603〜1867)初期、女性役者・出雲阿国は、それまでの可愛らしい"ややこ踊り"に替え、男装束に刀、脇差しを帯びて、京の都を舞った。彼女こそ、まさしく傾奇者。派手で異様な扮装で都人の度肝を抜いた彼女のパフォーマンスは、今日において日本固有の演劇「歌舞伎」へと繋がっていた。町人文化が江戸時代以降、長きにわたり栄えたこの国には、新たな価値観を愛でる懐の深さがある。ニュータイプのポップアーティストが、この国から続々と輩出されるには、こうした歴史背景が存在する。

歌舞伎図巻 二巻のうち下巻(部分) 江戸時代 17世紀:出雲阿国の「かぶき踊り」は、たちまち流行となり、本図の中央で踊る女官のように多くの追随者が生まれた
徳川美術館所蔵 ©徳川美術館イメージアーカイブ/DNPartcom


【傾奇者】(かぶきもの)

傾奇者は、戦国時代末期から江戸時代初期(1590年代後半から1640年代)にかけての社会風潮。江戸や京都などの都市部で流行した。異風を好み、派手な身なりをして、常識を逸脱した行動に走る者たちのこと。伝統的な美意識や価値観を大きく転換させる発想が庶民に愛好された。

BABYMETAL

© Amuse Inc., Photo by Dana Distortion

重低音が轟くヘヴィメタルの力強いサウンドに、SU-METALの澄んだ歌声、さらにYUIMETAL、MOAMETALを加えた3人の可愛らしくも小悪魔的なダンスパフォーマンスが加わり、唯一無二の世界観を創り出す「BABYMETAL」。J-POPとヘヴィメタルを融合させるコンセプトには、国内外のポップスファンはもとより、ヘヴィメタルファンをも巻き込み、ジャンルを超えて高く支持されている。様式美を踏襲するライブでは、演者にメタルの神「キツネ様」が降臨。ゆえに決めポーズは指でつくるキツネサインだ。




BABYMETAL プロフィール

中央:SU-METAL、左:YUIMETAL、右:MOAMETAL の3 人により、2010年に結成。ヘヴィメタルサウンドに乗せたガールズボイス、そしてヘヴィメタル界初の振り付けにより、観るものを惹き付ける。2014 年にリリースした1stアルバム『BABYMETAL』が全米ビルボード 総合チャートにランクイン。2016年4月、2ndアルバム『METAL RESISTANCE』をリリース。全米ビルボード チャート TOP40 に、日本人アーティストとして 53 年ぶりにランクインを果たす。また、同月には英国のウェンブリーアリーナにて日本人初となるワンマンライブを、9 月には東京ドーム 2DAYS で 11 万人を動員してのワンマンライブを開催した。

© Taku Fujii

でんぱ組.inc

© MEME TOKYO / TOY'S FACTORY

まるでおもちゃ箱をひっくり返したような個性派ユニット。漫画、アニメ、ゲーム、コスプレなど、6人のメンバーそれぞれが別ジャンルのコアなオタクで、その世界観をソーシャルネットワークで主張する。個々のオタクキャラクターを戦わせるかのようなスタンスと独特の歌詞やダンスにファンが一体となるライブの高揚感はすさまじい。電子音を多用し、歌詞情報をひたすら詰め込む"電波ソング"はデビュー当時からの変わらぬコンセプトだ。高速ビートで展開が激変していくカオスな楽曲、そして全員が掛け合う言葉の応酬も「でんぱ組.inc」を特徴づけるパフォーマンスである。




でんぱ組.inc プロフィール

古川未鈴、相沢梨紗、夢眠ねむ、成瀬瑛美、最上もが、藤咲彩音の6人組ユニット。東京コレクションやデザイナー・ミキオサカベをはじめとして、様々なクリエイターとのコラボレーションを活発に展開し、国内のみならず海外からも注目を集め、台北やジャカルタでのファッションイベントにも参加。2013年にはJAPAN EXPOに日本代表として出演。2014年4月から2015年3月まで東アジア文化都市2014横浜親善大使を務め、2015年にはワールドツアーも敢行。2016年12月には初のベストアルバム『WWDBEST 〜電波良好!〜』をリリースし、2017年1月には幕張イベントホールと神戸ワールド記念ホールでアリーナツアー、日本武道館にて追加公演が開催された。

©MEME TOKYO / TOY'S FACTORY

和楽器バンド

© Avex Music Creative Inc.

日本の伝統的な和楽器を使って現代的なロックリズムを奏でる「和楽器バンド」。日本の祭りを想起させる勇ましい和太鼓や、箏、尺八、津軽三味線による和音階は、日本の若者にとっても新鮮に映っている。ボーカロイド楽曲を和楽器編成で仕立てたところから人気を呼び、現在では国内のショーレースにも絡むほどの人気ぶり。まるで3Dゲームから飛び出してきたかのような艶やかな衣装、そしてダイナミックなステージ演出も魅力だ。海外でのライブ活動を積極的に行う「和楽器バンド」は、2016年3月には初のアメリカ・ニューヨーク単独公演、同年7月には北米単独ツアーを開催し、そのオリジナリティの高さで観客の心を鷲掴みにしている。

※日本の楽器メーカーが開発した音声合成システムで作った曲




和楽器バンド プロフィール

詩吟、和楽器とロックスタイルを融合させたロックエンタテインメントバンド。ボーカロイド楽曲をカバーしたミュージックビデオを動画サイトから発信して人気を集め、2014 年4 月にアルバム『ボカロ三昧』でメジャーデビュー。収録曲『千本桜』は、YouTube での再生数が5,200 万回を突破し、世界各国から数多くのコメントが寄せられた。メンバーは、鈴華ゆう子(ボーカル)、いぶくろ聖志(箏)、神永大輔(尺八)、蜷川べに(津軽三味線)、黒流(和太鼓)、町屋(ギター)、亜沙(ベース)、山葵(ドラム)。2015 年にリリースした2ndアルバム『八奏絵巻』はオリコンチャート1位、日本レコード大賞企画賞を獲得した。2017年3月には待望の3rdアルバム『四季彩-shikisai-』をリリース。

Photo by KEIKO TANABE (TAMARUYA)