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2017 No.22
召し上がれ、日本
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すき焼き
和牛を使った人気のごちそう
写真● 小原孝博
協力● 人形町今半上野広小路店
肉は火が通りすぎない程度に鍋から取り出す。溶いた生卵をつける人が多いがお好みで
和食のごちそうの中でも一、二の人気を争う料理「すき焼き」。豚肉や鶏肉、魚を食材にしたものもあるが、ごく薄く切った牛肉のロース肉やモモ肉を使用することが多く、和牛をぜいたくに食べられるのが人気の理由だ。
食卓で熱源にのせた鉄鍋を前に、調理しながら食べる一種の鍋料理。しかし、調理法には「割下」と呼ばれる調味液をあらかじめ用意しておく関東風と、焼いた牛肉に砂糖と醬油を直接からませる関西風の二つの食べ方がある。いずれも、香りづけの長ねぎは例外として、主役の牛肉を最初に調理することが肝心だ。好みの焼き加減に牛肉に火が通ったら、すぐにあらかじめ溶いておいた生卵につけて食べる。その後に鍋に入れる野菜や豆腐といったザク(具材)は、牛肉から溶け出た脂と旨みを含み、絶妙な味わいになっていく。
東西の流儀の差は、源流の違いという説もある。関西風は農具の鉄製「鋤」に野鳥や獣肉をのせて野外で焼いて食べた「鋤焼き」という料理から発展したのに対し、関東風は江戸時代末期(19世紀半ば)の開港後に、横浜で誕生した煮込み料理「牛鍋」がそもそもの起源だという。いずれも牛肉を食べる食文化が庶民の間でも一般化するのは明治時代(19世紀後半)以降で、現在の「すき焼き」が確立したのは大正時代末頃(20世紀初め)といわれている。
150年近くの歴史を経て、今も和食のごちそうに君臨するのは、日本の畜産農家のたゆまぬ努力によって、美味しい和牛が提供されているから。すき焼きは、濃厚な旨みをもつ和牛を、さらに美味しく食べるために洗練されてきた料理なのである。