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2015 No.15
水の国、ニッポン
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日本の水のあたりまえ
日本人にとって、水は常に身近にあり、暮らしを彩ってきた。
蛇口をひねれば清潔な水が出てくるのは日本ではごく自然なこと。
しかし、その陰にはさまざまな努力がある。
写真協力●東京都水道局、東京都水道歴史館、東京都建設局
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喫茶店やレストランで席に着くと、なにも言わなくても、まず、コップに入った水が供される。役所や図書館などの公共施設はもちろん、デパートや病院などにも無料の水飲み場があって、自由に利用できる。公園に行けば、遊び疲れた子どもたちが、水道の蛇口に顔を寄せてごくごく水を飲んでいる。日本では、町中でも簡単に、しかもほとんどの場合、無料で飲み水が手に入る環境が整っているのだ。
いつでもどこでも、安全でおいしい水が手に入るという「あたりまえ」が、日本人の暮らしを支えている。
高度な技術でおいしい水を
それを可能にしているのが、質・量ともに世界のトップレベルを誇る日本の水道だ。例えば首都、東京。地下に設置された水道管の全長は、約2万7000㎞に達する。地球を3分の2周する距離だ。
「実は東京は、水をつくるための条件に恵まれているとは言えません。そのため、安全でおいしい水を届けるために、水源域の広大な森林の管理・育成から始め、水道管の維持や運用まで、地道な努力ときめ細かい対応が求められます」と、東京都水道局の担当者は語る。
人口が多い東京では膨大な供給量を求められるうえ、取水源の川は清流とはいえない。そこで都では、利根川の水を引く全ての浄水場で、従来の浄水処理に加え、オゾンや生物活性炭を活用し、臭いや汚れを分解・除去する先端システムを導入している。
こうしてつくられた東京水の実力は高い。一般人を対象にした飲み比べでは、半数近くが、市販のミネラルウォーターよりも水道水のほうがおいしい、と評価したほどだ。
水の質は配水設備の状態によっても左右されるため、メンテナンスも徹底している。古い水道管は計画的に交換され、深夜には聴診器型の機器を路面に当てて、人の耳で水音を確認する漏水調査を随所で行っている。その結果、東京都の漏水率は、ここ数年、2%台を維持してきた。先進国の主要都市でも10~20%がめずらしくないなか、世界でもトップクラスの水準を誇っている。
近世に始まった水道のある暮らし
東京の水道の起源は、1590年に開設された小石川上水に遡る。上水とは水道のこと。この上水の水を、石や木製の水道管(石樋、木樋)を通じて、井戸へ送った。サイフォンの原理で低地から高地へ水を流したり、川底に水道管を通したりするなど、高度な技術を用いて、江戸(現在の東京)市中に網の目のように水道が張り巡らされていたという。
上水を引いた井戸は市内各所に設けられ、人びとはここから水をくみ上げ、飲料水や生活用水として利用した。井戸が、現代の蛇口の代わりだったのである。必要なときに欲しいだけ水が手に入る暮らしは、すでに400年前には始まっていた。
常に身近に水がある生活は、現代にも受け継がれている。朝、起き抜けに蛇口からコップに水をくんで喉を潤し、一日の終わりにはたっぷりお湯を張った湯船につかる。日本の暮らしは、豊かな水の恩恵を受けている。