2015 No.15

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召し上がれ、日本召し上がれ、日本

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だし
WASHOKUの神髄

写真●伊藤千晴  協力●分とく山

ユネスコ無形文化遺産に登録され、注目を集めるWASHOKU(和食)。この和食の味を支えているのが、「だし」である。

だしとは、水に材料のうま味を浸み出させた汁のこと。和食の汁物として欠かせない吸い物や味噌汁も、まずだしに具を入れて煮立て、吸い物は醬油や塩、味噌汁は味噌で味を調える。野菜はもちろん、肉や魚介類を使う煮物も、まずだしで煮てから調味することが多い。

だしの材料で最も一般的なのが、昆布と削ったかつお節(カツオの身を加熱し、乾燥させたもの)の組み合わせだ。昆布にはグルタミン酸、かつお節にはイノシン酸が含まれており、このふたつを合わせることで、だしのうま味はより濃厚になる。他には、煮干し(小魚の干物)や干しシイタケも、だしの材料としてよく使われる。乾燥した材料だけを使い、油分がないところが、欧米のスープストックや中国の湯と違う点だ。いつから、どの材料でだしを取るようになったのかは定かではないが、昆布とかつお節は15世紀ごろに書かれた料理書に記述があり、昆布とかつお節を合わせてだしを取る方法は、17世紀後半にはすでに確立していたようだ。

軟水である日本の水で取られた、たっぷりのだし。材料のうま味が凝縮されている

だしの取り方は、材料によってさまざま。かつお節は水を煮立ててから入れ、数分後に取り除く。昆布、煮干し、干しシイタケは、まず水につけることは共通しているが、つくる料理によって、入れたまま火にかけることもあれば、取り除いて火にかけることもある。また、水につけておく時間も、数分から一晩と幅がある。これは、日本の水が軟水であり、硬水に比べると成分を抽出しやすいことから生まれた方法だ。

かつお節は専用の削り器で削ってから使う。刃がついた板の上で上下に動かすと、削られたかつお節が下の箱にたまる

そして、材料を長時間煮込むことを基本的にはしない。火にかける時間はごく短く、煮過ぎてだしがにごることを嫌う。同じ材料で、何度かだしを取ることもある。最初の一番だしは、うま味が多く雑味が少ないため、吸い物などに使い、二番だしは煮物にといったように、料理で使い分ける。東京の和食の名店「分とく山」のご主人の野崎洋光さんは言う。

「素材そのものを味わおうとする和食は、淡味が特徴です。吸い物のだしにはかつお節を使いますが、かつお節は削るとすぐに酸化が始まり味が落ちるので、削りたてを使いたい。また、煮物なら、素材からも味が出てくることを考えて、薄めにだしを取る。素材の味を生かすには、だしとのバランスが大切なのです」

鍋から立ち上るだしのよい香りは、和食のおいしさのひとつ。軟水という日本の風土からつくり出されただしは、淡いながらも奥深い、和食を支えるかけがえのない存在だ。

だしの材料。左上より時計回りに、かつお節、煮干し、昆布

だしの味見をする、「分とく山」主人の野崎さん