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2014 No.12
お菓子の国ニッポン
日本はお菓子の国!?
対談 黒川光博×青木定治
四季の移ろいをめでる感性、形にこだわる美意識、素材を生かした味へのこだわりが、日本の豊かなお菓子文化を育んだ。
創業480年を超える老舗和菓子屋の当主黒川光博さんと、パリで大人気の日本人パティシエ青木定治さんが語る、日本のお菓子の伝統と今。
「和菓子」と「洋菓子」の違いとは?
黒川 日本には和菓子と洋菓子という区分けがあります。日本独自の食材、小豆や餅を使ったものが和菓子、西洋から入ってきたものが洋菓子ということになっている。17世紀から続いた鎖国をやめ19世紀後半に開国してから、西洋の文化が続々と入ってきたために、そのような区分ができたのです。
青木 たとえば和菓子は、砂糖ひとつにしても、さまざまな種類を使い分けますよね。そして洋菓子は小麦粉を、和菓子は米をベースにしているものが多い。
黒川 私は「和菓子は植物性の原材料でつくられているもの」という定義づけをしています。動物性の脂や乳製品、ゼラチンは一切使わない。
青木 和菓子は「蒸す」という技法も特徴的です。
フランス菓子のシュークリームは、カスタードクリームをつくって食感のある皮で包んでいる。でも、それは和菓子の最中やまんじゅう、大福など、餡を皮で包んだものと共通しているような気がします。マロングラッセのように、クリをシロップに漬け込んだものも、小豆で餡をつくる技術と同じような製法だと感じています。
黒川 和菓子は「五感の芸術」であることも特徴です。まずは味覚。
そして視覚。見てきれい、おいしそうということ。そして嗅覚。ただし和菓子の香りは、洋菓子と比べて控えめで、それは茶道において抹茶の香りを引き立てるよう、お菓子の香りが強くなってはいけないためです。次に触覚。楊枝で菓子を切った時の硬さ、割った時のやわらかさ、口に含んだ時の歯ざわり、そういうことはひじょうに大切です。
そしてもう一つ、洋菓子との大きな違いは、和菓子は聴覚、耳で楽しむことができるという点です。和菓子にはそれぞれに、風景や季節、たとえばサクラの咲く様子などを表した名前がついており、その名前を聞いて、情景を思い浮かべるのです。
青木 和菓子には、ほかにも驚くこと、世界中に自慢できることがたくさんありますよね。和菓子の色使いは淡いパステルで、香りも色も出しゃばりすぎず、すごくセンスのいい配色です。それに対してフランスのお菓子の色使いは、中身の味を表現するための使い方がほとんどです。日本のお菓子を見ると、ぼく自身も、センスの面で数段負けているなと感じることが多いのです。
和の素材を使ったお菓子の可能性
黒川 私たちは10年ほど前に、和菓子に洋菓子の要素を融合させた菓子をお出しする店を始めました。餡とチョコレートを組み合わせた「あずきとカカオのフォンダン」や、餡をジャムのように使える「あんペースト」などをつくっています。これからは間違いなく、和菓子と洋菓子の材料がクロスオーバーするようになっていくと思うのです。
青木 ぼくはパリの店のフランス人のお得意さんに、グリーンティー味のお菓子を食べたいと言われて抹茶のエクレアをつくったのが、和の素材を使った始まりでした。今では黒ゴマ、ユズ、ほうじ茶、ワサビといったものを、マカロンやショコラなどにも取り入れています。パリの人たちを驚かせたい、常に新しい世界を見せたいという思いがありますので。
黒川さんにもパリで抹茶味のマカロンなどを召し上がっていただいて、その時に、なぜ和菓子の材料には抹茶を使わないのかというお話になり、「茶道では、抹茶と一緒にいただくものだから」ということを聞いて、なるほどと思ったものです。
黒川 でも今は、抹茶のお菓子もあり得ると思っています。抹茶はもちろん、ショウガやワサビなども、海外で使われてきていますし、次はきっと味噌も使われるのではないでしょうか。餡も、素材としてフランスで当たり前のように使っていただけるようになるのではと思いますね。
以前、世界的なパティシエであるピエール・エルメさんが、餡の製造工程を見たいと弊社の工場にいらっしゃったことがありました。工場のスタッフはみんな驚いて大歓迎していました。そうやってお菓子の世界が広がっていくといいですね。
青木 私のパリの店でも小豆を年に500㎏も使うようになりました。以前は25㎏くらいだったのが、急激に増えて。小豆と抹茶とプラリネのお菓子は、クリスマスケーキにもしました。日本によく来るフランスのパティシエたちはみんな小豆が大好きですね。