2014 No.12

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お菓子の国ニッポン

5

伝統から新しい世界へ

米粉と砂糖とニッキ(シナモン)を基本につくられる「八ッ橋」。
今も昔も大観光地・京都を代表する伝統菓子でありながら時代に合う味と形を
追求し、おいしい進化を遂げてきた。

写真●高橋仁己  協力●(株)聖護院八ッ橋総本店

丸みがついた茶色い薄板をパリッと嚙むと、ニッキの香りとともにさわやかな甘みが口の中に広がる。蒸した米粉に砂糖とニッキを合わせ薄く焼き上げた「八ッ橋」は、世界有数の観光地・京都を代表するみやげ菓子だ。

由来は諸説あるが、17世紀に活躍した盲僧の箏曲家、八橋検校にちなみ、箏(日本古来の弦楽器)の形に似せてつくられたのが始まりといわれる。

1900年代の初め頃、七条駅(現在の京都駅)で、お菓子としては初めてホームでの立ち売りを始めたのが話題となり、京都みやげ・八ッ橋の人気は一気に高まった。

伝統があるから新しい菓子が生まれる

焼き菓子の八ッ橋がみやげ菓子として定着する一方で、やわらかい「生八ッ橋」も食べられていたが、日持ちがしないこともあり、お客は地元の人に限られていた。ところが、1960年の茶会での提案をきっかけに老舗の八ッ橋会社が「餡入り生八ッ橋」を商品化。生八ッ橋でつぶ餡を包んだ三角形のお菓子は、すぐさま人気となり、みやげ菓子の定番となるのに時間はかからなかった。

その後は各社が創意工夫を凝らし、餡や生八ッ橋にさまざまな味の変化をつけたものや、焼き菓子の八ッ橋に砂糖やチョコレートの衣をかけたものなど、多彩な八ッ橋を生み出し、京都各地の店舗やみやげ物屋の店先をにぎわせている。

次の100年に続くお菓子を模索

先の老舗八ッ橋会社でも、伝統の味を守りながら、さらなる改革を怠っていない。鮮やかに色づけされた生八ッ橋で花をかたどったり、キャラメルなどの新素材と合わせた、進化系八ッ橋ともいえるスイーツを新ブランドで次々と発表。若い人たち、ことにあまり八ッ橋を食べない地元の若者に訴える試みを始めた。新しい商品の中で手ごたえのあったものから、100年以上続く銘菓を模索するためだ。

長らく続いた都の伝統を礎にしているからこそ、冒険的で進取の気性に富むといわれる京都の文化。お菓子もまた例外ではない。

焼き菓子の八ッ橋。米粉の風味とニッキの香り、硬い歯ごたえが特徴

左/八ッ橋に縁が深い八橋検校は箏(図右下)の名手。死後、業績を偲び楽器を模したお菓子が生まれたという
右/老舗八ッ橋会社の総本店の店先。創業320年を超える

上/つぶ餡入り生八ッ橋をつくる様子
下/つぶ餡入り生八ッ橋の定番、ニッキ味の「聖」(右)と、抹茶味の「聖・抹茶」(左)

さまざまな味わいが楽しめる餡入り生八ッ橋の変化形。
上から「黒胡麻聖」、「聖・ショコラ」、「聖・苺」

左/薄く焼いた八ッ橋を棒状に巻いた「カネール」は、フランス語でニッキの意味
右/砕いた八ッ橋をニッキ風味のホワイトチョコレートに練りこんだ「ネスレキットカットミニ聖護院八ッ橋」(ネスレ日本(株))

色鮮やかでかわいらしい最新型の生八ッ橋。店舗(左下)の雰囲気も、洋菓子店のようだ(nikiniki)