2016 No.18

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日本の紙

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和紙の伝統を受け継ぐ人びと

1300年もの歴史をもつ和紙。
その伝統を受け継ぎ、可能性を広げる試みは、現代も続いている。

写真● 宮村政徳

和紙とグラフィティで生み出すアートグラフィティ・アーティスト TOMI-Eさん

自身が制作したグラフィティ・アートを背にするTOMI-Eさん

江戸時代(1603~1867)に、名所や美女などを題材に、時代の「今」を切り取る芸術として花開いた浮世絵。浮世絵は和紙に色を刷り重ねていく木版画だが、TOMI-Eさんは、和紙にスプレーを吹き付ける現代の浮世絵師である。

16歳で渡米し、壁に描かれたグラフィティ・アートに衝撃を受け活動を始めたTOMI-Eさん。帰国後、日本人である自分のアイデンティティを生かした制作を模索している時に浮世絵と出会い、和紙での創作を思い立った。「和紙はインクの吸い込みもよく、艶っぽい光沢があり、キャンバスや壁では出ない色が出る。これだ!と思いました」

すっかり和紙に魅せられ、調べていく中で、人間国宝・岩野市兵衛さんが漉く和紙に行き着いた。厚みも風合いも一枚一枚違う「生きた」市兵衛さんの和紙に描くうちに、制作に対する姿勢も変わってきたという。「壁は上から塗り直すことができますが、和紙は一発勝負。より集中して向き合うようになりました」

スプレーを使って、和紙に「今」を吹き付ける、新しいアートが生み出されている。

女性を描いた浮世絵に触発さ イタリアの住宅の天井に使われたれた作品。鮮やかな色から淡い色まで、美しく発色させる和紙は、TOMI-Eさんの表現を支えている 

三世代でつなぐ紙漉き道具の技術吉田屋指物

手漉きの和紙づくりには、さまざまな道具が欠かせない。越前和紙の産地・福井県で百年近く紙漉きの道具をつくり続けているのが、吉田屋指物だ。全国的に職人が減りゆく中、漉き桁などの製作と修繕を続けている。

作業は主に四代目当主、木内雅昭さんの父で三代目にあたる吉田實さんの担当だ。漉き桁には、水に強くて軽い青森ヒバを用いるが、紙料を汲み上げる際に水圧で桁が反らないよう厚みを調整するなど、長年の経験が重要となる。雅昭さんは「初めは別の仕事をしていましたが、父の技術を絶やしてはいけない」と、家業を継いだ。全国からの依頼に「プレッシャーもありますが、つくり続けないと技術は残らないですから」と語る。現在は、實さんの孫の将康さんも修業中だ。「子どもの頃からこの仕事をしたくて。祖父は職人さんが望む道具をすぐにわかってつくれるのがすごい。自分もそうなりたい」と日々精進している。三世代の職人が、貴重となった技術を次代へとつなぎ、和紙づくりを支えている。

工房にて。左より木内雅昭さん、吉田實さん、将康さん

修理がすんだ漉き桁を確認する吉田實さん。漉き桁は、修理をしながら20年程度使えるという。水圧が大きくかかるので、長時間使用しても疲れにくいものを、と心がけている

「江戸からかみ」の魅力を海外へインテリアデザイン・コーディネーター 柳 智子さん

和紙に金雲母で摺った、照明の丸い形に合う文様「輪違い」。イタリアの住宅の天井に使われた

和紙にさまざまな装飾を施す「江戸からかみ」。江戸(現在の東京)で発展した装飾技法で、和紙や色の組み合わせにより無限ともいえるデザインを生み出す。襖や屛風などに使われ、伝統的な日本の住まいに欠かせなかった「江戸からかみ」を、今、柳智子さんは海外に発信しようとしている。

きっかけは、店舗デザインのために和紙を利用しようと、「江戸からかみ」問屋の東京松屋を訪れたことだった。「日本人が好んできた文様や色といった伝統と職人の技術が凝縮されている。圧倒されました」

イタリアで建築を学んだ経験から、海外でも受け入れられると確信した柳さんは、国内のみで流通していた「江戸からかみ」の展示会をイタリアで企画する。「紙そのものの美しさで勝負しよう」と、大判サイズを展示し、華やかでダイナミックな世界を伝えた。訪れた人びとからは、単なる紙にとどまらず芸術の域に達していると感嘆されたという。個人住宅の天井への施工も決まり、海外での販売も模索中だ。

「世界中の人に『江戸からかみ』で住まいを彩ってもらいたい」。柳さんの挑戦は続く。

イタリアの展覧会での柳さん

雲母で、版木のボタン模様を写し取り、藍色をぬった和紙に摺った「江戸からかみ」

東京松屋 http://www.tokyomatsuya.co.jp/