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2016 No.18
日本の紙
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暮らしに息づく紙技術
暮らしのすみずみで利用される、紙。
日本では、紙をもっと自由に、さらに便利に
使いこなすための技術の探究が、日々続けられている。
写真提供● 福永紙工、ムサシ、日本製紙パピリア、日本製紙クレシア、柴田屋加工紙、三菱鉛筆、東京大学大学院 農学生命科学研究科 磯貝研究室、PIXTA
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紙加工と特殊紙の世界
一見、紙でできているとは思えない不思議なプロダクトたち。これらは、細かな「打ち抜き」や複雑な「折り」などの紙加工を得意とする、東京郊外の小さな印刷会社が手がけたものだ。中でも外部クリエーターとの協働プロジェクトで製作された美しい「空気の器」は、大きな話題を呼んだ。軽やかで変幻自在に姿を変えるこの不思議な器は、1枚の紙に驚くほど緻密な蜂の巣状の切り込みを入れることで出来上がった。金型作製から、紙を切り抜く際の0.01㎜単位の調整に至るまで、熟達の職人の勘を頼りに100回以上もの試作が重ねられたという。
同社の他のプロジェクト製品には、建築家とコラボレーションした、100分の1スケールの模型キットもある。極小の紙パーツでつくる模型というこの画期的な遊びを商品化できたのは、やはり細部まで神経の行き届いた加工があればこそだった。
日本の紙づくりの伝統は、特殊紙と呼ばれる合成紙の技術にも受け継がれている。そのうちのひとつを、選挙という意外な場面で見ることができる。投票用紙を折って投票箱に入れるとあら不思議、中で自然に開くのだ。これによって開票作業がスムーズになり、投票結果の確定が格段に早まった。ポリプロピレンを主な材料とする「ユポ紙」というフィルム製で、見た目や質感は紙そのもの。開発当初は表面が平滑すぎるのが難点だったが、やがて鉛筆でもすらすらと記入できるまでに改良された。候補者名を自動選別する機械も同じメーカーから開発され、最先端の選挙システムが実現した。
紙おむつなど品質の高さで定評がある衛生用品の中で、特に日本ならではの発展を見せているのが、ティッシュペーパーだ。紙にグリセリンなどの成分を含ませ、しっとりとやわらかい感触に仕上げた保湿ティッシュは、風邪や花粉症で鼻をかむ機会が多い人のために20年ほど前に登場した。今では、メントール、ヒアルロン酸、コラーゲンなど含まれる保湿成分も多様化し、メイク用品のように使う女性も多い。
紙の繊維間の結合を限界まで弱くすることで、水をかけると瞬時に溶ける紙も開発された。溶け具合は従来のトイレットペーパーの比ではなく、まさに水中に雲散霧消する。種を入れ土に埋める袋や、川に流す灯籠など、溶けてなくなることが求められる用途に使われており、これもまた紙の可能性が具現化した好例といえよう。
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建築家・寺田尚樹のデザインと、福永紙工の緻密な型抜き加工が生んだ、紙の極小世界。全体が103×148㎜に収まる細かなパーツから、100分の1スケールの花見風景ができる(テラダモケイ/福永紙工 撮影=益永研司)