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2016 No.18
日本の紙
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折紙からイノベーション
取材協力●竹尾
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カラフルな「ファインペーパー」でつくったミウラ折り(写真=平田正和/竹尾 見本帖本店展示「折り紙の呼吸展」より)
折紙とは、1枚の紙を折り動植物や幾何学的な形を生み出す遊びで、日本では多くの人が子どもの頃から親しんでいる。
その折紙が今、科学技術の領域で注目を集めている。折紙の技術や特性をものづくりに生かそうという折紙工学だ。コンピュータを駆使し折紙を数理的に扱う設計手法(計算折紙)により、子どもの遊びだった折紙は可能性を広げ、その発想や技術が世界の関心を集める。宇宙産業から自動車や医療、ファッションなど応用は多岐にわたるが、よく知られているのが「ミウラ折り」だ。宇宙構造物の設計過程で生まれた折り方で、身近なところでは地図や飲料缶に採り入れられている。
「折紙の代表的な形に『ツル』がありますが、本物そっくりではなく、1枚の紙で折れる程度に簡略化・抽象化されている。そんなところに日本人ならではの感性や立体構造に対する優れた認識力が表れていると思います」と言うのは、明治大学の萩原一郎教授。折紙工学の実用化・汎用化を目指し、研究を行ってきた。教授が開発した「トラスコア」は、立体折紙の考え方を金属や樹脂に応用したパネルだ。三角錐の突起を並べた2枚のパネルを中表に合わせた形状で、軽量かつ衝撃に強く、太陽光パネルなどに実用化されている。
もうひとつ、萩原教授が取り組んでいるのが、折紙式3Dプリンターの開発だ。立体物などの3次元データを2次元の展開図に変換するシステムで、市販の印刷機で印刷できる。従来の積層型3Dプリンターに比べ短時間で低コストの上、大きな立体の製作もできる。用途としてサンプルや試作品の作製を見込むが、空撮した写真からビルなどの構造物を再現し都市計画に応用する、といった使い方もできそうだ。
折畳みや展開、伸縮といった折紙の特性は、建築とも相性がよい。東京大学の舘知宏助教は、折紙技術を建築に応用する研究を進める。鍵となるのは、紙の代わりに厚みのある平面パネルを用い、強度と柔軟さを持たせた「剛体折紙」だ。この〝折紙〟は、展開・折畳みが簡単なため、開閉式の屋根や、テーブルなどの家具にも応用できる。軽く持ち運びしやすい性質は、期間限定の展示施設や災害時の仮設住宅にも向く。
「イベントで使った折畳み式のパビリオンを被災地へ持って行き、役立てることもできる。使い捨てずリユースし、その建物が持つ記憶も伝えられたら」
もともと折紙には、人に物を贈る際の礼法としての役割があった。病気の人のために千羽のツルを折り回復を願う「千羽ヅル」という習慣もある。一折一折に祈りを込め、人のために役立てようという思いは、現在の折紙工学にも通底する。
折紙の魅力について、舘助教に聞いてみた。
「日本的であると同時にユニバーサルであり、グローバルでもある。研究領域としては、工学や数学、自然科学、医学、教育、デザインに至るまで、さまざまな分野を横断して存在しているところに可能性を感じます」
日本の伝統的な手遊びは今、世界の研究者によって最先端の技術に生まれ変わり、21世紀のものづくりにイノベーションを引き起こそうとしている。