2016 No.18

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召し上がれ、日本召し上がれ、日本

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紙鍋
不思議と燃えない

写真● 大山裕平 協力● 銀座小十

伊勢エビ、白菜、シメジが入った豪華な紙鍋

中に水分があれば、紙は燃えない

日本の冬に欠かせない鍋料理。食卓に大きな土鍋や鉄鍋をしつらえて火にかけ、煮えたところから皆で取り分けて食べる。寒い時季には、家庭や飲食店で鍋を囲み大勢でわいわいと盛り上がるシーンがよく見られる。

ひとりで鍋を楽しみたい場合は、一人前用の小ぶりな鍋に具材を入れてつくる。近年は、この小鍋が紙でできている不思議な「紙鍋」を、観光地などの旅館でよく見かけるようになった。固形燃料をセットした自分専用の紙鍋の中で、次第に食べ頃になっていく海や山の幸を臨場感たっぷりに味わうことで、旅の宴はいっそう思い出深いものになる。

薄い紙鍋なら熱が均一に回り、具材が煮えるのも早い。紙が食材から出るアクを取る効果もあるという。直接火にかけても燃えないのは、水の沸点が100℃を超えることはない一方で、紙の引火点が300℃以上と高いためだ。つまり中に水分がある限り紙の鍋は燃えないというわけだ。

現代の紙鍋は防水加工を施した洋紙製がほとんどだが、昔ながらの和紙を使った紙鍋を出す専門店も少なからずある。繊維が長く強度のある和紙という存在があったからこそ、紙で鍋をつくるという面白い発想が生まれたのだろう。「軽くて、重ねられて、清潔感がある。紙鍋はすばらしい発明ですね」こう話すのは、今回調理をしてくれた日本料理店「小十」の店主、奥田透さんだ。

「自然に触れることに安らぎと癒やしを感じる日本人は、土や木、紙などの自然素材を大事にしていろんな場面で活用してきましたが、料理も例外じゃない。紙鍋は、そんな志向から生まれてきたのではないでしょうか」

食材だけでなく、器からも自然を感じようとする感性が生んだユニークな発明、それが紙鍋だ。

下ごしらえをする「銀座小十」店主、奥田透さん。日本を代表する若手料理人のひとり

和牛のしゃぶしゃぶも紙鍋で