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2015 No.17
日本のミニチュア力
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顕微鏡から生まれたファッション
雪の結晶模様と江戸の粋
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雪華模様の着物をまとった女性が描かれた浮世絵。「江戸の松名木尽押上妙見の松」渓斎英泉(所蔵=古河歴史博物館)
江戸時代、雪に魅せられた「雪のお殿様」がいた。現在の茨城県にあった古河藩の藩主・土井利位(1789〜1848)だ。利位は日本で初めて雪の結晶を顕微鏡で観察した人物として知られる。20年にわたり研究を積み、雪の結晶を「雪華」と命名、1832年にはその観察結果を『雪華図説』にまとめ出版した。14カ条の雪の効能と86種の雪の結晶図が掲載された本書は、続編とともに、日本最初の雪の自然科学書として高い評価を得ている。
一方、利位の研究成果から見いだされた「雪華模様」は、やがてその美しさから江戸庶民のあいだで大流行し、結晶を花に見立てた優美な模様が着物や小物を飾った。数々の浮世絵の美人画には雪華模様の着物をまとった女性が描かれており、当時の流行の様子を今に伝えている。まさに「顕微鏡から生まれたファッション」というほかないこの現象は、当時最新の科学技術に向き合った日本の近代化の結晶でもあった。雪華模様は現代でも江戸の粋を伝える人気のモチーフとして定着しており、和小物にはもちろん、意外なところではTシャツやスニーカーなどにも用いられていて面白い。