niponica is a web magazine that introduces modern Japan to people all over the world.
2014 No.13
召し上がれ、日本

ワサビ
ぴりっと辛い、和食の名脇役
写真● 名取和久 協力● 田丸屋本店
刺し身やにぎり寿司に欠かせないワサビは、醬油に溶いたり、すし飯と生魚の間にしのばせたりして使用する香辛料だ。口に入れるとツンと鼻に抜ける刺激が生魚の臭みを消し、うまみを引き出してくれる。
ワサビは、日本原産のアブラナ科の多年草で学名も「Wasabia japonica」。その歴史は古く、10世紀頃の文献に既に記述が見られる。根の部分をすりおろして使うが、その刺激ある辛みが最大の特徴だ。成分に含まれるアリルカラシ油には抗菌性があるため、食材の鮮度を保つ効果もある。そして、根だけでなく茎や葉も漬物などに利用される。

田丸屋のわさび園(静岡県富士宮市)で育つワサビ。近くに、清冽な水をたたえる川が流れる(左下)
生育にきれいな流水が必要なことから野生のワサビは渓流のほとりなどで育ち、またいくつかの山間地で栽培もされている。富士山の麓も名産地のひとつだ。静岡県富士宮市にあるワサビ園を訪ねると、あちこちで水が湧く敷地内でワサビが水耕栽培されていた(写真)。近くに富士山の伏流水を水源とする芝川が流れ、水量が豊かで流れの速い川のまわりは水しぶきで視界が曇る。富士山そのものには川や池がないが、雨水や雪どけ水が地面に染み込み、長い時間をかけて濾過され、伏流水となって川や湖に流れ込むのだ。
ミネラル豊富な富士の水のおかげでワサビがよく育つのだと、ワサビ園の杵塚眞美さんは言う。園のワサビは砂利を含む砂地に植えられているが、この砂利も富士山から採取したものだ。水温は一年を通して10~11℃。白い花が咲き、根がある程度大きくなるまで、1年半から2年をかけゆっくりと育てる。園では、時期をずらして作付けするので、一年中収穫できるという。
重要なのは、水温を一定に保つよう水を常に均一に流すこと。水流を妨げるゴミや藻はまめに取り除く。大雨などで川が濁流になると、ワサビが変色する原因になるので引き込む水量を調節するなど加減も必要だ。「水も砂利も富士山のもの。ここでは、富士山の恵みでおいしいワサビが育つんです」と杵塚さん。
ワサビは高価なため、最近はホースラディッシュを原料とした代用品が使われることが多い。しかし、ワサビ特有の嫌みのない辛さ、爽やかさは代用品には及びようがない。ワサビは水に恵まれた日本の風土を生かした、和食の名脇役なのだ。

左/ワサビの辛み成分は、すりおろすことで引き出される
右/ワサビは、魚の生臭みを消し、うまみを引き立たせる