盆栽って何?
盆栽を育てる楽しさ
盆栽は、山野にある植物を鉢の中で育てていきながら、自然界の植物の姿以上の美しさを求めていく趣味(しゅみ)であり、日本の伝統的な芸術でもあります。その根底には、生命ある植物に対する日本人の心の優しさ、きめ細やかな美的感覚が表されています。草木を鉢に植え、花や葉の美しさだけを楽しむ鉢植えとは一線を画しています。
「盆栽」という言葉は、14世紀中ごろの詩文に登場していますが、日本の盆栽の原形はさらに古く、1309年の絵巻物に見ることができます。広く人々が楽しむようになったのは江戸時代(1603年〜1867年)になってからです。
古い時代の盆栽は貴族や僧侶(そうりょ)など身分の高い人の間で楽しまれていたようですが、江戸時代(1603年〜1867年)には身分を問わず大勢の人々が趣味として楽しむようになりました。さらに明治時代(1868年〜1912年)になると、盆栽を芸術的見地からも鑑賞(かんしょう)するようになり、本格的な美の追求が始まりました。また、このころから大規模な盆栽展が開かれたり、樹木を育てる技術の専門書が刊行されたりするようにもなりました。
現代では、盆栽はだれでも気軽に楽しめる趣味として親しまれています。一方、長い年月にわたり大切に受け継(つ)がれてきた盆栽は、日本の気候風土と日本人の植物に対する愛情に育まれてきた日本の伝統的な文化、芸術として認識されています。
さらに今では、盆栽が世界各国でも楽しまれるようになりました。1989年に埼玉県(大宮市)で世界盆栽大会が行われたときには、世界32か国から1,200人以上の人たちが集まりました。この大会を機に世界盆栽友好連盟が設立され、盆栽を国際的に広め発展させることに大きく貢献(こうけん)しています。世界盆栽大会は日本の後、4年ごとにアメリカ(オーランド)、韓国(ソウル)、ドイツ(ミュンヘン)、アメリカ(ワシントン)、プエルトリコ(サンファン)、中国(ジンタン)で開かれ、2017年には、再び日本(さいたま市)で行われました。
盆栽の種類
現在、日本で盆栽として育てられている樹種は実にはば広く、鉢の中で健康に成長することができる種類ならば何でも盆栽とすることができます。その中でも特に人気があるのは「松柏(しょうはく)」と呼ばれるマツの仲間、モミジやカエデなど秋に美しく紅葉するもの、サクラやウメなど美しい花を咲(さ)かせるもの、カリンやカキなど果実をつけるものなどです。日本以外の国でも、やはりそれぞれの国の気候風土に適した樹種が盆栽として育てられています。大きさは1メートル(約3.3フィート)近い大きなものから、手のひらに乗るような可愛らしいものまでさまざまです。
盆栽には基本となる木の姿、樹形(じゅけい)がいくつかあります。幹がまっすぐ上にのび枝が前後左右にバランスよく配置された「直幹(ちょっかん)」。幹がななめにかたむいた姿の「斜幹(しゃかん)」。幹がS字の形に曲がった姿の「模様木(もようぎ)」。強風により幹が曲がり枝も一方向にのびる姿を表した「吹き流し(ふきながし)」。崖(がけ)などの急斜面(きゅうしゃめん)で見られる下向きに曲がる姿を表現した「懸崖(けんがい)」などです。この樹種にはこの樹形が向いているといった傾向(けいこう)はありますが、決められた形にとらわれず、1つひとつの盆栽の個性を見極めて、その長所を最大限にのばし、美しく調和のとれた姿に育てていくことが大切です。
人間が似合う服を選ぶように、盆栽も最も似合った大きさや形、色の鉢を選ぶことで魅力(みりょく)をさらに引き立たせることができます。
愛情を持って接することが大事
盆栽は、育てていく過程でさまざまな手法によって樹木の姿を整えていきます。ときには枝を切ったり、針金で曲げたりと、少しかわいそうに見えることがあるかもしれませんが、その目的は美しい姿にするというだけではなく、鉢という限られた条件の下で樹木が健康に育っていくために不可欠な作業でもあるのです。また樹木たちも自らの生命力で、自然の節理(せつり)に沿って成長していくわけですから、人間がすべてを思い通りに作りあげることなどできません。盆栽を育てていく上で最も大切なことは、植物の生命の尊さを知り、常に愛情を持って接することです。そうして毎日の管理を欠かさずに続け、さらに世代をこえて受け継いでいくことによって、見る人の心を動かし感動を呼ぶ盆栽を育てることができるのです。
みごとに育った盆栽でも、樹木が成長を続けていく限り完成はありません。毎日の管理は続いていくのです。盆栽が『完成のない芸術』とも呼ばれるゆえんです。育てる喜びをいつまでも追求していくことができる、というのも盆栽の魅力の奥深(おくぶか)さと言えるでしょう。