日本の学校には、生徒がさまざまな催し物を行う「文化祭」という学校行事があります。文化祭は生徒が学年やクラスの垣根を越えて協力し合い、一つのイベントを作り上げる体験を通じて、楽しみながら仲間とのつながりや社会性を学びます。
文化祭準備で生まれる絆
文化祭の準備は決して簡単ではありません。多くの学校では、クラスや部活動ごとに展示や出し物を企画し、どんな発表をするか、どのように装飾するかといった構想を自由に出し合います。役割も生徒で決めるため同じ目標に向かうには普段接しない生徒との協力が必要です。偶然居合わせたクラスメートという人間関係の中で自分がどのように立ち振る舞うかという社会性を学ぶことができます。
協力して課題を解決するたびに、生徒たちはチームワークやコミュニケーションスキルを身に付け、絆を深めていきます。
たとえばある生徒は学年全体を管理する役員に選出され、イベント全体を把握し、全クラスの責任者をまとめスケジュール管理や監督の重要性を体験し学びます。ある役員の生徒は「運営を経験してから見える景色が全然違いました。1日のスケジュール調整の大切さを知りました。」という声もある一方で、演目や演出を制作する進行役の生徒は「最初は何をしたら良いかわからずバラバラだったチームが、同じ方向を向いて進み始めたときにすごく力が湧いて自信がつきました。」と語っています。運営役員と演目監督の各役割で、一致団結することがお互い大切だと実感するたびゴールへと向かう行動力が飛躍的に向上します。
東京都立青山高等学校では演劇を企画する場合、著作権の確認という任務が与えられ、その装飾や展示において、特定のキャラクターやデザインを使用する場合にはどのような許可の手順が必要か、どの程度なら問題ないのかなど実際の版権所持者に確認を取り、社会人のような経験をすることができます。もちろん教員の支援はありますが、法律を意識しながら制作を進めます。
文化祭の準備をしている様子。(画像提供:Tokyo Metropolitan Aoyama High School)
バラエティ豊かな文化祭は学校生活の一大イベント
文化祭の楽しさの一つは多様性に現れます。文化祭では学校の様々な空間を使います。一般的には装飾を施した教室での展示、体育館では大規模な上演、そして模擬店が開かれるなど学校全体がさながらアミューズメントパークのようになり、訪れる人々を楽しませます。展示では、芸術作品、科学実験、歴史研究など、生徒たちが部活動で学んできたことをさまざまな形で発表する機会となり工夫が凝らされています。
左:東洋高等学校文化祭の装飾された出入口。
中央:模擬店の様子。
右:都立青山高等学校のダンスのステージ発表の様子。
上:東洋高等学校文化祭の装飾された出入口。
中央:模擬店の様子。
下:都立青山高等学校のダンスのステージ発表の様子。
特に文化系の部活動は、作品の完成度や独創性の高さが際立ち、訪れた人々の興味を引くミュージアムでも見られないようなものも展示されています。中には体験参加ができるものがあり、双方向的に楽しむことができます。必要であれば生徒が大人でも感心する内容を説明してくれます。
左:東洋高等学校文化系部活動のペーパークラフトの展示。
右:東洋高等学校写真部の展示。
上:東洋高等学校文化系部活動のペーパークラフトの展示。
下:東洋高等学校写真部の展示。
各教室のコンセプト企画
演劇やダンス、音楽ライブといったステージパフォーマンスも欠かせませんが何と言っても、各クラス単位で行われるコンセプトの企画は花形と言えます。学校によってテーマがあり、各クラスが競う部分でもあるので気合いの入り方は段違いです。
東京都立青山高等学校では全クラスの教室が小劇場となります。1つの建物に21の劇場が集まる場所を想像できるでしょうか?すべて観覧するには圧倒的に時間が足りませんがどれをとっても品質が非常に高く、芝居好きにはたまらないお祭りです。入口の外装もすべて生徒の手作りで電飾や細部にこだわり、動くものもあります。プロ顔負けの看板でどの演目も魅力的に映り公演開始が楽しみでなりません。例え公演中で入場できなくてもこの凝った外装を鑑賞するだけで価値は充分にあります。アミューズメントとエンターテイメントの醍醐味です。
都立青山高等学校のそれぞれの劇場の外装。
もちろん演目は生徒たちが台本から吟味して決めます。本格的な衣装やメイクもさながら、舞台の大道具やその演出、そして演技にも相当な力を入れているため、見るものを一瞬で物語に惹き込み、時間を忘れ世界に浸ることができます。観客もその熱気や活力に感動し、生徒たちの情熱や努力が伝わる瞬間を共有する一体感はお祭りを超えたものを感じます。生徒たちは普段の授業では味わえないような達成感や充実感を体験し、後の学校生活をより豊かに送ることが約束されます。
都立青山高等学校の演劇の様子。
東洋高等学校では全教室が自由な空間となり各生徒が工夫を凝らしてテーマを決め普段は授業で使う部屋を非日常な空間に変貌させます。あるクラスでは古き良きウエスタンスタイルのカフェを設営します。もちろん飲料や軽食の注文も可能です。また、遊園地のように様々な仕掛けを施したお化け屋敷は大行列です。いつもの慣れ親しんだ教室であるはずなのに脱出不可能に感じてしまうほどです。生徒が色々な役を演じ、余興の要素も盛りだくさんで人気を集めています。
東洋高等学校のクラスのコンセプト空間。カフェやお化け屋敷。
とにかく活気がある模擬店エリア
文化祭には模擬店が立ち並ぶ学校もあり、生徒たちが手作りの食べ物や飲み物を販売します。そのエリアは焼きそば、ポップコーン、たこ焼き、クレープ、綿飴など、多様性に富んだメニューのお店が並び、活気に満ち溢れ、呼び込みの声が響き、食べ物の良い香りが立ちこめています。模擬とは思えないほど本格的な器具を手際よく操ります。そこは市場のように笑顔があふれています。
お店の企画から調理器具の準備、食材の調達から調理、接客まで全て生徒たちが行います。ここでも普段関わりのなかった生徒同士が協力し友情を育みます。
これは社会に出るうえで必要なスキルも身につき、大きな意義があります。運営を通して普段の授業では見えなかった人格にも気付くので新たな友人関係を作るきっかけになります。他者との関わり方や責任感も学ぶことができる上で重要な経験になります。来場者に喜んでもらうためだけでなく、こうした活動も文化祭ならではの楽しみの一つと言えるでしょう。
一致団結!文化祭は一生の思い出になる
各学年の生徒はそれぞれの役割で文化祭に参加します。1年目は指示を待つ姿勢が多く、2年目になると自主的に動ける生徒が増え、さらに3年目では、大人のように周囲を支援しながら全体をまとめる存在になります。学年ごとに成長の階段を一歩一歩進んでいく様子がうかがえます。
文化祭は単なる学校行事ではなく、生徒たちが自分たちの力で目標を成し遂げる達成感を味わい、他者と協力する大切さを学び、そして自分の個性や才能を発揮する場でもあります。文化祭の成功に向けて仲間と共に全力を尽くすことで、一人ひとりが学校生活における大切な思い出を作り、将来に向けての自信や成長を得ることができるのです。
準備期間中に育んだクラスメートとの絆は一生の思い出。(画像提供:Tokyo Metropolitan Aoyama High School)