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2015 No.16
召し上がれ、日本

柚子
香りで和食に華やぎを
写真●名取和久 調理●荒木典子

柚子の形、色、香りをうまく利用した「柚子釜」。中身は、手前から、イクラ、ダイコンとニンジンの酢の物、シメジと青菜のおひたし
鮮やかな黄色い皮と清々しい香りが特徴の柚子は、ミカン科の常緑低木。種をまいてから実をつけるまで成長するのに10年以上かかるが、柑橘類の中で最も耐寒性が高いため、比較的寒冷な東北地方でも育てられる。秋(10月頃)から冬にかけて実をつけるが、夏(7月頃)でも皮が濃い緑色をした未完熟の果実、青柚子が出る。
柚子は日本人にとってなじみ深い食材だ。種が多く果汁の少ない柚子は、果肉よりもむしろ、皮を主に使う。皮は薄くそぐか、細かく刻むなどして、香りづけに吸い物や煮物に添える。たとえば、吸い物の汁を器によそったら、最後に柚子の小片を入れて蓋をする。こうすることで柚子の香りを閉じ込めることができ、蓋を開けた瞬間、吸い物の湯気とともに爽やかな香りが広がるのだ。
料理のさまざま場面で使われる柚子だが、中でも皮を器として使う「柚子釜」は、柚子の魅力を存分に生かした一品。正月料理や懐石料理など、あらたまった食事のときにつくられるもので、柚子の上部を切って果肉をくりぬき、中に酢の物などを盛りつける。すると柚子の黄色が料理を引きたて、華やかな印象を与えるだけでなく、具材にもほのかに柚子の香りが移るのだ。「香りもご馳走のひとつ。冬に欠かせない柚子は、それほど高価でも珍しくもないけれど、少し使うだけで料理が華やかになる、そんな食材ですね」と料理研究家の荒木典子さんは言う。
一方、酸味の強い果汁は醬油やダシと合わせれば、鍋や蒸し物のときに使う「ポン酢」になる。また青柚子を使った調味料では、すりつぶした柚子と青唐辛子、塩を合わせた、九州発祥の「柚子胡椒」が知られ、そばの薬味やドレッシングの風味づけなど幅広く使われている。
また、食用以外にも、一年で最も日中の時間が短い「冬至(12月22日頃)」の日に、柚子の皮や実を浮かべた柚子湯に入る習慣がある。柚子の香りが立ちのぼる湯に浸かると、心身ともにあたたまり、リフレッシュ効果があるという。
芳香を味わうだけでなく、入浴のときにも。柚子は日本の暮らしに彩りを添える、癒しの果実なのだ。