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三个互不相连的断片 竹内真
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第4話
それから毎晩、僕とスコットは時間を合わせてネットチェスで落ち合うようになった。僕はスコットからチェスの基礎を教わり、スコットは僕に『アキハバラはいつもコスプレの人がいますか?』とか『オデンカンというのはどういう食べ物ですか?』とかいう妙な質問をぶつけてくるのが習慣となったのだ。--そしてもちろん、僕らはまた張に会って「謎のコイン」という問題の答えを確かめたいと思っていた。
スコットは『一つの推理は浮かびましたが、細かいところを聞き込みをしたいね』とのことだった。僕の方は推理ともいえない代物で、『最初から正解なんかない問題をでっちあげたんじゃないかなあ?』という見解である。スコットはそんなことはなかろうというが、どっちにしても張と話をしないと片は付かないわけで、なんだか嫌な奴だったのにその登場を待ちわびることになってしまった。
しかしそういう時に限って相手は現れない。ヤフー・ゲームのチェスのルーム1にログインすれば画面にはスコットや僕のIDが表示されるから、僕らが待っていることは張にも分かるはずだった。なのに僕らの元にやってくるのは張以外の対戦者ばかりで、今夜こそはと思ううちに一週間ばかり過ぎていった。
IDと一緒にチェスの実力を表したレーティングの数値が表示されるので、その数字が大きい相手とはスコットが、低い相手とは僕が戦った。僕も似たようなレベルの初心者だったら勝つことができるようになり、だんだんとチェス自体が面白くなっていった。チェス独特のルールが掴めてくるに従って将棋との共通点も把握できてきて、将棋の経験を活かして戦えるようになったのだ。勝敗によって自分のレーティングも増減するので、それを励みに試合を重ねる日々であった。
もちろんそれぞれの対戦相手とチャットで会話することもあったが、何故かスコットほどには親しくならなかった。試合開始や終了の挨拶をすればいい方で、特に共通の話題も見つからないまま淡々と試合をこなすのが常なのだ。大抵の対戦相手は同じ日本人だろうに、アメリカ人のスコットとの方が仲良くなれたというのも不思議なものである。どうしてだろうと尋ねてみたら、スコットは少し考えてから答えてくれた。
『日本語で何というか知りませんが、きっとstimulation のおかげですね』
聞いたことのない英単語だったので、僕は久々に英和辞典を開いてみた。大学入試を終えてからは埃をかぶっていたものだが、刺激とか興奮とか鼓舞とかいう意味が紹介されている。
『お互いに刺激になってるってことかな?』
『そうですね。私は日本を知りたくて、昇太からアキハバラのことを教わる。私はチェスや推理パズルを教えるで、お互い楽しい』
確かにそうかもしれない。チェスとか秋葉原とか日本のマンガとか、お互いに共通の話題がある上に、お互いに教えたり教わったりできるから面白いのだ。今ではそれに加えて共通の関心事項もある。
『二人とも、張から出された「謎のコイン」って問題が気になってるしね』
『おお、それこそstimulation ですね。私たちの頭をstimulate しています』
知的刺激とか知的興奮というわけだ。僕自身はあまり頭を使ってないけれど、子供の頃には探偵になりたかったというスコットにはおあつらえむきの謎なのかもしれない。
『ところでスコットは今は何をしてるの?』
『今? 昇太とチェスをしています』
『いや、そうじゃなくて……探偵にならなかったなら、今の職業は何? 学生とか?』
まだ年齢は聞いてなかったが、なんとなく同年代のつもりでいた。こうして僕と毎晩チェスをしているからには気楽な身分だろうと思っていると、意外な答えが返ってきた。
『私の仕事はコックです。ちょうど「ザ・シェフ」や「ミスター味っ子」のようですね』
  聞けば職場はニューヨークのカフェテリアで、歳も三十代なのだそうだ。『野菜を切って肉を焼いて、チーズやソースとパンに挟みます』という仕事だそうだが、『でも本当はスシバーで働くことに変えたいです』という。日本贔屓で転職したいのかと思ったら、寿司屋の方が給料がよくてもっとゆっくり眠っていられるのだそうだ。今の職場は午前の出勤なので、朝食を食べながらネットチェスをしているところだということだった。
『そっか、そっちは朝なんだ。日本はもう夜中ですよ』
『タイムラグですね。地球の反対側だから』
そんな話をしている最中、ついに待ち望んでいた相手が現れた。僕らがチェスをしている画面に張のIDが表示されたのだ。
『おお、張さんですね。待っていました』
スコットが呼びかけると、張は例によって挨拶抜きで『解けたかな?』と質問してきた。無愛想な文章から、解けっこないと僕らを挑発しているような気配が伝わってくる。
スコットはその挑戦を受けるようだった。
『謎は解けました。しかし、それを話す前には、あなたにお聞きしなければいけません』
なんだか探偵マンガみたいな台詞であった。気取った言い回しが面白かったのか、張も素直に『どうぞ』と返している。
『では質問します。イエスかノーで答えて下さい』
スコットの言葉もすぐに表示された。猛烈な勢いでキーボードを叩いている姿が目に浮かぶようだった。
『「謎のコイン」に出てくる人が魚を見るのは、初めてででしたね?』

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竹内真
1971年生まれ。『神楽坂ファミリー』で小説現代新人賞(1998年)、『粗忽拳銃』で小説すばる新人賞(1999年)を受賞する。

主な著書に『カレーライフ』(2001年)、『自転車少年記』(2004年)、村上春樹の『海辺のカフカ』にトリビュートを表した小説『図書館の水脈』(2004年)などがある。また、ジョン・スタインベック著『チャーリーとの旅』(2007年)を翻訳した。 『ミステリーズ』誌上にて安楽椅子探偵ミステリーを連載中。
http://www.asahi-net.or.jp/ ~hi3m-tkuc/

竹内真
1971年生。作品《神乐坂家庭》荣获小说现代新人奖(1998年)、《粗忽拳铳》获小说昴新人奖(1999年)。

主要著作《咖喱生活》(2001年)、《自行车少年记》(2004年)、表示敬仰村上春树《海边的卡夫卡》而发表的小说《图书馆的水脉》(2004年)等。另外,还有译著约翰·斯坦因贝克的《斯坦贝克携犬横越美国》(2007年)。并且,正在杂志《神秘》上连载安乐椅子侦探神秘故事。
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