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三个互不相连的断片 竹内真
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第7話
次の水曜日、スコットは現れるなり浮かれた調子で告げてきた。
『私は新しい仕事と夏休みを得ました。七月を働き、八月すべては夏休みです!』
『……どういうこと?』
いくつか問いただしてようやく分かった。今の仕事は今月いっぱいで辞め、九月から念願の寿司屋で働くことが決まったので、八月は丸ごと夏休みとなったというのだ。せっかくだから旅行でもしようと思っているらしい。
『それなら日本においでよ』僕は思いついて誘ってみた。『スコットの大好きな秋葉原を案内してあげるし、今は円が安いから日本に来る分には安上がりだってよ』
『おお、それは素晴らしい』
スコットは大いに乗り気なようだったが、そこで僕ではなく張に声をかけた。
『エリックは、夏休みに旅行はどうですか? もしできるなら、私は三人で会いたい』
張の返事まではしばらく間が開いた。夏の予定を調べているのか返事をためらっているのか、どちらともはかりかねる沈黙だった。
『三人で会うのは構わないけど』やがていつもの調子で返答があった。『今回は遠慮しておく。日本は今さら珍しくないし』
『おお、そうでした。あなたはかつて日本に住んでいたのでした』
それじゃあ三人で会うのは無理かと思ったら、スコットは呆気なく日本旅行を諦めたらしい。あらためてこう提案してきた。
『では、日本ではない場所で会うのはどうでしょう? もうすぐエリックさんの住むカリフォルニアに、三人で集まるのは?』
どうせ張は秋からアメリカに留学するのだから、その大学の近くはどうだというのである。スコット自身、ニューヨークから西海岸への旅行というのにも心惹かれるらしい。
しかし、それだと僕は面白くない。日本以外で会うなら僕にとっては初めての海外旅行となるのに、その目的地が張の留学先というのも癪である。どうせだったら三人それぞれに縁のない国がいいと思いついた。
『アメリカでも日本でも、中国でもない国で会うっていうのはどうかな?』
『第三国ってわけか』張が言った。『でも、どこの国だよ?』
『その候補地は、今から三人で探せばいいだろ。ネットで僕らが会うのにふさわしい国を調べて、三十分後にまた三人で相談とかさ』
ネットで調べればそれぞれの旅費や移動距離などもすぐに分かるだろう。三人で調べて適当な国がなかったら、残念だけどこの話はまたの機会ということにすればいいのだ。
『おお、名案ですね』スコットはすぐに賛成してくれた。『では、三人で聞き込みをして、三十分後にまた集まりませんか?』
聞き込みという日本語はちょっと違うと思ったが、それを指摘する暇はなかった。張が『OK。それじゃあ解散!』と宣言したと思ったら、次の瞬間には張もスコットもログアウトしてしまったのである。
僕も急いでチェスルームを出た。--海外旅行に行く気になったわけではないが、妙に意気込んでネットサーフィンを始めていた。

三十分後、張はホノルルを、スコットはベオグラードを候補地に上げた。
張の理由は単純で、世界地図でそれぞれの住んでいる場所を調べたら、太平洋の真ん中あたりが中間地点だと気づいたらしい。そして太平洋の島で飛行機の便も多く、誰にとっても行きやすいのはハワイだというわけだ。
しかし僕は反対した。ハワイといったらアメリカ領だから、誰の国でもないという条件に反する。『こういうのは推理パズルと一緒で、決められた条件の中で決めるべきだ』と正論で攻めると、張も渋々引き下がった。
スコットがあげたベオグラードは旧ユーゴスラビアの首都で、チェスがとても盛んな都市らしい。彼の敬愛するアメリカ人の名プレーヤー、ロバート・フィッシャーが二十年ぶりのカムバックを果たして世界王者に返り咲いたという伝説の場所でもあり、スコットはいつか行ってみたいと思っていたのだそうだ。
『調べたら、日本からも中国からも行く方法がありました。私もぜひ行ってみたいね』
しかしその旅費はとても僕が出せる額ではなかった。そもそもあまり馴染みのない地名で、僕と張には無理してまで行きたいような思い入れはない。スコットには悪いが遠慮したいというのが正直なところだったし、張もそれには同意見だった。
  それなら昇太はどこを提案するんだという話になり、僕は満を持してニューアイランド共和国という名前を上げた。その国を知ってもらうため、英語で書かれた共和国公式サイトと、それを日本人が紹介しているサイトのアドレスを打ち込んでやった。
『サイトを見てもらえば分かるけど、ニューアイランドは地図に載ってない国なんだ』
ニューアイランドはオーストラリアの西、インド洋に浮かぶ島だった。十八世紀末から漂流民が住み着き、ロシア革命後はソ連の統治下で自治を認められていたが、冷戦時代になると東西両陣営の思惑が絡み合い、存在しないことにされて全ての地図上から抹消されてしまったらしい。しかしソ連の崩壊にともなって独立国となり、今では世界中から移民を受け入れて自由の聖地みたいになっているということだった。
『面白い国だろ?』僕はさらに続けた。『それに、この国を見つけたきっかけって、前に張が考えた「謎のコイン」だったんだ』
ネットサーフィンの最中、僕はふと思いついて「酒場の拳銃」や「謎のコイン」という言葉で検索してみたのである。するとコイン収集家のサイトがヒットして、そこで謎のロジャーコインというのを見つけたのだった。
 そのサイトの作成者は、コイン収集の中で「COMMONWEALTH of NEW ISLAND」と記された金色のコインを入手したらしい。知らない国名だったのでネットで調べたら、美しい絵画と共にその国の文化や歴史を紹介している公式サイトを見つけた。全て英文なので一部を抜粋して日本語に訳し、一ロジャーのコインの画像と共に紹介しているということだった。
僕はその日本語サイトを見ながら続けた。
『飛行機では行けないらしいんだけど、オーストラリアのフリーマントルって港町から定期船が出てるってさ』
オーストラリアだったら日本や上海からも近いし、英語の国だからスコットにも気楽だろう。三人それぞれに都合がいいわけだし、地図にない島だということに魅力を感じていた。海外旅行自体を躊躇していたはずなのに、今ではすっかり気持ちが傾いていたのだ。
『ネットチェスで知り合った国籍の違う三人が会うのには、ぴったりの国じゃないかな』
二人にそう問いかける頃には、たとえ一人でも行ってみたいと思い始めていた。

Copyright © 2007 Takeuchi Makoto / Web Japan
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竹内真
1971年生まれ。『神楽坂ファミリー』で小説現代新人賞(1998年)、『粗忽拳銃』で小説すばる新人賞(1999年)を受賞する。

主な著書に『カレーライフ』(2001年)、『自転車少年記』(2004年)、村上春樹の『海辺のカフカ』にトリビュートを表した小説『図書館の水脈』(2004年)などがある。また、ジョン・スタインベック著『チャーリーとの旅』(2007年)を翻訳した。 『ミステリーズ』誌上にて安楽椅子探偵ミステリーを連載中。
http://www.asahi-net.or.jp/ ~hi3m-tkuc/

竹内真
1971年生。作品《神乐坂家庭》荣获小说现代新人奖(1998年)、《粗忽拳铳》获小说昴新人奖(1999年)。

主要著作《咖喱生活》(2001年)、《自行车少年记》(2004年)、表示敬仰村上春树《海边的卡夫卡》而发表的小说《图书馆的水脉》(2004年)等。另外,还有译著约翰·斯坦因贝克的《斯坦贝克携犬横越美国》(2007年)。并且,正在杂志《神秘》上连载安乐椅子侦探神秘故事。
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