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2014 No.14
きらめく日本文化
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光がつなぐ、技術と文化
屛風を泳ぐ金魚
18世紀頃から庶民の間で観賞魚として愛されてきた金魚と、照明や映像などの先端技術を融合させたユニークな展覧会が、2014年7月から9月まで、東京で開催された。ひときわ目をひいたのが、巨大な屛風の中を金魚が泳ぐ「ビョウブリウムⅡ」だ。日本で古くから間仕切りや装飾に用いられてきた屛風の形をした水槽に、自然の風物をテーマにした映像を投影。幅7m、高さ2m、厚さ25㎝のアクリル製水槽の中を泳ぐ約600匹の金魚と映像が融合した、全く新しい美の世界である。
この展覧会のプロデューサー、アートアクアリウムアーティストの木村英智氏は、熱帯魚の専門店で経験を積んだ後に独立、アクアリウムとアート、デザイン、エンターテインメントを融合させた「アートアクアリウム」という分野を打ち立て、光や映像のほか音や匂いなども駆使した、五感に訴える展覧会を日本各地で開催している。展覧会で泳ぐ金魚たちの健康管理には細心の注意が払われており、投影される映像が金魚の健康に悪影響を与えることはないという。
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約600匹の金魚が泳ぐ屛風形水槽に映像が投影される「ビョウブリウムⅡ」(写真=㈱エイチアイディー・インターアクティカ)
光る絹糸
暗闇の中で淡い緑色に浮かび上がる着物。絹で織られたこの衣装が緑に光って見えるのは、光るサンゴの遺伝子を組み込んだカイコが吐き出した「光る絹糸」を使っているからだ。茨城県つくば市にある政府系研究機関が開発した技術で、開発当初は光るクラゲの遺伝子を組み込んでいたが、現在はより明るく光る「アザミサンゴ」の遺伝子を使っている。
顕微鏡を見ながら直径約1㎜のカイコの卵にまず金属の針で小さな穴を開け、その穴から極細のガラス針でサンゴの遺伝子を組み込んだDNAを注入する。一部の細胞にしかサンゴの遺伝子が組み込まれないため、当のカイコ自身は光る糸を吐くことはできない。だが、このカイコの次世代の個体は、全身にDNAが組み込まれることでサンゴが持つ緑色の蛍光タンパク質を含む糸を吐き出すようになり、そのまゆから得られた絹糸は、暗闇で青色LEDの光を当てると緑色に光り輝くのだ。別種のサンゴの遺伝子を組み込んだ、ピンクやオレンジ色に輝く絹糸もある。
ほかにも、抗菌成分を含む糸など、機能性を持つ絹糸の研究が進められており、再生医療や化粧品の素材などへの応用が期待されている。
省エネ電球で京の町を照らす
早春と初冬の毎年2回、京都市で開かれる「灯り」と「花」をテーマにした催事「京都・花灯路」。白壁や石畳が美しい東山や、竹林の小径や水辺などの自然に包まれた嵯峨・嵐山地域の散策路を、約2500基の露地行灯のあかりがほんのりと照らし出す。この行灯の光源として、地元の電子部品メーカーが開発したLED電球が活躍している。
催事が始まった2003年当初は、行灯の光源に白熱電球を採用していた。LED化が早くから検討されていたが、行灯に収まる小さなものや、白熱電球のように広い角度で光を発することができる製品がなく切り替えが困難だった。そこで、地元の電子部品メーカーが、LEDチップをセラミック基板に直接実装したり、カバーの形状や素材に独自の工夫を凝らしたりして、LED電球の小型化に成功。約180°という広い角度で上質な光を出せるようになった。もちろん、LED電球の特徴である省エネ性も確保しており、白熱電球に比べて電気代は約8分の1になったという。
小さくても本格的な立体映像
手のひらに載せた小さな箱に、立体的な東京の夜景が浮かび上がる──日本の大手玩具メーカーが2014年1月に発売した、立体映像を気軽に楽しめる玩具つきお菓子である(実際的な主役は玩具の方)。
箱に記載された2次元コードをスマートフォンで読み込むと、映像のデータがダウンロードされる。次に箱の上蓋を外し内部に付属の反射板などの部品を取りつけ、そこに先ほど映像データを取り込んだスマートフォンを載せると、スマートフォンの画面に映された映像が箱の中で反射し、擬似的に立体画像が浮かび上がって見えるというしくみだ。
第1弾として発売されたのは、東京で行われたライトアップのイベントを再現した商品。これが玩具の世界に最新の映像技術を持ち込んだと評価され、業界団体が選ぶ「日本おもちゃ大賞2014」の「イノベイティブ・トイ部門」で大賞を受賞した。手頃な価格も受け、子どもに人気のキャラクターなどを使った後続商品も相次いで発売されている。
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箱の内部でスマートフォンの映像を反射させ、立体映像を楽しむ「ハコビジョン」(写真=(株)バンダイ)