(写真提供:ICD-LAB)
「ロボット」と聞いて、どんなイメージが湧くでしょうか?便利で、効率的で、完璧なサポート役、というのが一般的に理想的とされるロボットです。現代では、工場や病院、工事現場など、仕事の場面で活躍するロボットもあります。しかし、日本ではそうしたロボットとは違う特徴をもったロボットも生まれ、注目を集めています。愛嬌があって、一緒にいたくなるような魅力をもったロボットたち。それらはどのように生まれ、今どのように親しまれているのかを紹介します。
癒し系ロボットの元祖。エンタテインメントロボット
日本で生まれた"仕事に役立つことを目的としていないロボット"の第1号が、日本の企業が開発したエンタテインメントロボットです。四足歩行で動き、持ち主を覚えてコミュニケーションできるロボットで、最初のモデルが誕生したのは1999年でした。発表された時から大きな話題になり、発売してあっという間に売り切れてしまったほどです。仕事や家事を手伝うわけではないロボットが、一般家庭に広まった最初の例です。
1999年に登場したエンタテインメントロボット。メタリックで機械的なデザイン。(写真提供:ソニーグループ株式会社)
それから十数年経って、このエンタテインメントロボットはより犬らしい姿で再び登場しました。進化したAIが搭載され、自然な動きで歩き回り、人に懐き、かわいがりたくなるほどいろんなことができるので、アレルギーでペットが飼えない人や、遊び相手が欲しい子どもにとっては本物の犬のように愛することのできる存在となっています。
現在は本物の犬に近いデザインになり、愛らしさが増しました。(写真提供:ソニーグループ株式会社)
大学の研究室から生まれた「弱いロボット」って?
豊橋技術科学大学「ICD-LAB」では、その名も「弱いロボット」というテーマで数々のロボットを研究、開発しています。「弱いロボット」とはどういう意味かというと、完璧ではないということです。
例えば「ゴミ箱ロボット」というロボットは、カメラやセンサーが付いていて、ゴミを見つけたら近くまで動くことはできるのですが、自分で拾うことはできません。そのかわりに近くにいる人にちょっとおじぎをします。そうすることで、ゴミを拾い集めることを人に手伝ってもらうのです。人は頼られると嬉しくなってしまうもので、「いいよ!」と言って拾ってくれるそうです。
「ゴミ箱ロボット」にお願いされると、子どもたちは喜んでゴミを拾い集めてくれます。(写真提供:ICD-LAB)
また、「トーキング・ボーンズ」というのも弱いロボットの一つです。これは、物語や昔話を話してくれるロボットなのですが、忘れっぽくてストーリーの一部がわからなくなってしまいます。日本の子どもなら誰でも知っている昔話を話しながら「えーと、つづきはなんだっけ?」となってしまうのですが、すると聞いている子どもは「そのつづきはこうだよ!」と教えたくなります。こうして、ロボットと子どもが助け合いながら物語を楽しむことができるのです。
お話を途中で忘れてしまうロボット「トーキング・ボーンズ」。「教えてあげなくちゃ」と一生懸命聞いてあげたくなります。(写真提供:ICD-LAB)
なぜこのようなあえて完全でないロボットを開発するのでしょうか。研究室の代表である岡田美智男さんはこのように話してくれました。
「ロボットは完璧であることを求められがちですが、どんなロボットも完全ではありません。その不完全なところや弱いところを適度に見せることで、他の人の強さや優しさを引き出すことができ、一緒に何かを成しとげる達成感やつながりを得られるのではないか。そしてそれは人とロボットだけでなく、人と人との関わりにも発展していくのではないかと思っています。」
日常に溶け込みだした癒し系ロボットたち
生活を便利にしたり、家事をサポートしたりするような機能はなくても、その存在だけで癒されるロボットはますます増えていて、人気となっています。その種類もさまざまで、例えば温かい熱を発して体温を感じさせるロボットもいます。「愛される」ことを目的としたこのロボットは、着替えをさせたり寝かしつけをしたりなど、赤ちゃんのような存在として家族の一員になっていきます。
このロボットは37~39度の子どもの体温と同じくらいの熱を発し、ぬくもりを感じさせます。(写真提供:GROOVE X)
また、子犬に甘噛みをされているような体験ができるものもあります。一見普通のぬいぐるみのようですが、独自のテクノロジーによって毎回嚙み方が変わり、強く噛まれたり、ほとんど噛まれなかったりします。
子犬の時しか味わえない、甘噛みの心地良さを再現したいという想いで開発されました。(写真提供:Yukai Engineering Inc.)
ICD-LABが企業と共同開発したロボットは、家にいる時間を一緒にリラックスして過ごせるように作られました。人の顔や声を認識する技術によって楽しく会話ができるロボットで、時には寝言やおならを発するユーモラスなかわいさがあります。リビングに置いて話しかけたり、寝室で抱っこしたり、かわいい同居人のように過ごすことができるのが特徴です。
ICD-LABと企業が共同開発したロボットはころんとした形がかわいらしい。(写真提供:Panasonic)
かわいくてそばにいたくなるような日本生まれのロボットたち。毎日の暮らしを楽しくしたり、優しい気持ちにさせてくれたりする、まるで家族や友達のような存在です。これからの時代は人間とロボットが一緒に生きていく社会になると言われています。未来ではロボットと仲良くなることがもっと当たり前になっているかもしれません。