段ボールは加工しやすく、強度もあり、リサイクルも可能です。そんな段ボールを素材として使った工作を楽しむ人は日本にも多くいます。日本の段ボール工作にはどんな特徴があるのでしょうか?
日本の子どもの段ボール作品
工作が好きな日本の子どもたち。中でも丈夫で軽く、サイズも様々な段ボールを使った工作は以前から行われていましたが、最近ますます人気になっています。理由としては、インターネット通販を利用する人が増え、包装のための段ボールが家に残るようになったことと、環境への配慮から廃材を利用してものづくりをしようという意識が高まっていることがあります。
自宅はもちろん、幼稚園や小学校などで段ボールを使った工作をしたり、遊んだりする機会はたくさんありますが、特に熱心に取り組む子どもが多いのが夏休みです。日本の小学校では夏休みに宿題が出て、その中で「自由研究」という課題が出されます。その名の通り「自由」にテーマを決めていいのですが、段ボール工作に取り組む子がたくさんいます。長い休みの間たっぷりと時間を使って、大型の工作に取り組む子、自分で遊べるゲームを作る子、まさに十人十色の作品を作り、夏休み明けに学校に持ち寄ります。
アイデアから全て作ることもあれば、段ボール工作の本を参考に作ったり、市販の段ボール工作キットを利用したりすることもあります。
自由研究としての工作の定番のひとつである段ボール製の迷路は、ゲームボードを動かして中にあるビー玉を操り、ゴールを目指します。
段ボールで作る迷路ゲームは自由研究の定番の一つ。
一方で、市販の工作キットもバラエティ豊かです。最近人気なのが自動販売機型の工作ができるキットです。
本体だけでなく缶も自由に着色できます。(写真提供:hacomo株式会社)
段ボールでつくった缶を入れて、ボタンを押すと缶が出てくる仕組みになっています。操作の面白さに加えて、普段の生活でおなじみの自動販売機を自分の手で作れるという喜びと楽しさが人気の秘密です。
直径7cmまでの球状のものを入れられる。これは着色例。(写真提供:hacomo株式会社)
もう一つ人気なのがカプセルトイの詰まったマシンの工作です。商業施設などで見かけるカプセルトイのマシンは、レバーを回すとカプセルが出てきて、中身は人気のキャラクターのフィギュアやキーホルダーなど多彩なので、子どもたちに人気があります。その子どもたちが大好きなマシンを段ボールで再現できるというわけです。
さらには段ボールでロボットアーム風の、動かせる装置が作れるキットもあります。ものをつかむ手の部分の操作を右のレバーで、アームの操作は左のレバーでそれぞれ行うというとても凝った作りです。
つくる過程で各部が動く仕組みも理解できる。これは着色例。(写真提供:hacomo株式会社)
こうした段ボール工作を作りながら、機械的な部品の動き方や構造などを知ることができるので、教育にも良いと考えられています。
段ボールに魅了された大人の作家も
段ボール工作が好きなのは子どもだけではありません。段ボールという素材に魅せられ、まるでアート作品のような段ボール工作を作る大人もいます。
段ボールとは思えない繊細な建築物のレプリカを作る、3歳のころから段ボールにこだわってものを作り続けてきた日本のアーティストがいます。本業は会社員でありながら、自分の時間で段ボール工作を続けています。
うぷあざ棟梁さんによる、段ボールと接着剤のみでつくった高さ40cmの「法隆寺五重塔」。(写真提供:うぷあざ棟梁)
段ボールを使って、乗り物やスニーカー、アニメのキャラクターなどを精巧に再現するプロの段ボール工作アーティストも登場しています。
アメリカのバスケットボールリーグのマイケル・ジョーダン選手が履いていたことで知られるシューズを段ボールで再現した作品。これは実際に履くこともできます。(作品提供:大野萌菜美)
自動車のタイヤの溝や側面のボルトなどが陰影を生み出しています。ボンネットを開けるとエンジンルームまで精巧につくられていることがわかります。(作品提供:大野萌菜美)
自動車なら、ボルトやタイヤの溝など、必要なパーツをいくつも切り出して、プラモデルのように組み立てていきます。
アニメ映画『ハウルの動く城(2004)』(スタジオジブリ)に登場する"動く城"を段ボールで再現した作品。高さは37.5㎝。
(作品提供:大野萌菜美)
災害時にも役立つ段ボール
段ボールは強度があって、ネジやクギを使わずに組み立てることができ、リサイクルもできる素材です。そして作るものによっては材料費も安く抑えられることがあります。
そんな段ボールの特徴に着目して、災害時に避難所などで使うことを想定した簡易ベッドも開発されています。世界各国で長年のあいだ避難所の環境改善に取り組んできた建築家によるもので、今後の活用が期待されます。
建築家坂 茂さんが考案した段ボールでできたベッドは一般的なシングルベッドのサイズと同じ大きさ。(写真提供:㈱良品計画)
ベッドの組み立てにはハサミやカッター、糊やテープは必要ありません。これもいわば段ボール工作キット。自然災害の多い日本の風土と、清潔好きでものづくりが好きな文化から生まれた日本らしいキットと言えるかもしれません。
「段ボールでできたベッド」の外箱を組み立て直すと4つの小さな箱になります。それをベッドの下に収納する仕組み。
(画像提供:㈱良品計画)
段ボール工作から得られる学びとは?
動かして遊べるおもちゃ、緻密で精巧なアート作品、さらには災害時に人々を助ける家具。特性を理解して上手に使うことで、段ボールはさまざまな活躍を見せる可能性の広い素材となります。使う道具や作り方の自由度も高いため、自由な発想を育んでくれる機会を私たちに提供してくれているのかもしれません。