写真提供:(左上)そなエリア東京(左下/右上)本所防災館(右下)豊田市立 元城小学校
海に囲まれている日本列島は、海と陸にあるプレートの境に位置しているため、昔から地震や津波、台風といった自然災害が多く、近年では気候変動の影響で1つの場所にとつぜん集中して大雨がふるゲリラ豪雨も増えてきました。その一方で、日本は防災大国でもあり、いつおきるかわからない自然災害に備えて、日ごろから子どもたちの命を守る防災教育も積極的にすすめられています。今回は、そんな日本の防災教育にまつわる状況や取り組みについて紹介します。
日本の防災意識と防災教育の現状
日本では、保育園から小・中学校、高校、大学まで、災害から身を守る防災教育がおこなわれています。関東大震災があった9月1日が「防災の日」と定められたことからはじまった秋の防災週間では、学校の子どもたちだけでなく会社で働く大人たちも恒例行事として避難訓練に参加しています。2011年に日本観測史上最大規模の地震によって巨大な津波が発生した東日本大震災をはじめ、近年自然災害が増えていることからも見直しがおこなわれ、ますます防災の重要性が一般に認知されるようになりました。ハザードマップは、川の氾濫や土砂くずれなどの災害リスクを知ることができる地図。自分が住む町の情報をパソコンやスマートフォンでも見ることができます。各地で防災の啓蒙も盛んにおこなわれており、東京では今すぐできる防災情報をまとめた冊子が各家庭に配布され防災意識を高めています。このように身近な危険を知ることで災害が起きた後の被害を最小限におさえることを「減災」といい、近年の防災における大切な考え方となっています。
ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」で公開されている首都圏周辺の津波浸水想定データ及び、洪水、土砂災害、道路防災の情報を重ねて表示しています。地形にあわせて色が濃くなっている場所は危険度が高いことがわかり、場所を選ぶことで自由に拡大して見ることもできます。 (出典:ハザードマップポータルサイト)
受け継がれる防災標語
日本の東北地方には「津波てんでんこ」という昔から受け継がれてきた標語があります。「てんでんこ」は「各々」の意味で、「津波てんでんこ」は、大きな地震の後は津波が来るから肉親にもかまわずに各々速やかに高台に逃げるよう促す意味があります。この標語を避難訓練で学んでいた子どもたちが東日本大震災の津波において高い生存率だったことからも、日本の小学校でおこなわれている過去の教訓を活かした定期的な防災教育は子どもたちの命を守る重要な役割を果たしています。
防災教育の実例
東京と大阪のほぼ真ん中に位置する愛知県豊田市にある元城小学校では、火災や地震に備えた避難訓練が毎年おこなわれています。事前に学習した後、地元の中学校まで避難ルートを歩いたり、子供園の児童たちと近所のショッピングセンターの屋上にある避難所へ行っています。この小学校は、大学とも連携しており、実際にかかった時間をGPSで計測。集められたデータは、どんなルートを通るのがよいのか?雨の日は雨合羽と雨傘のどちらがよいのか?など、翌年の避難訓練に活かされています。
教室で知識を学んだ後に避難ルートを歩く「避難訓練」の様子。(写真提供:豊田市立 元城小学校)
日本の首都東京にある町田市の鶴川第二小学校では、災害から命を守る行動を学ぶ防災朝会が毎年おこなわれています。避難の方法のポイントや大雨の時の注意点、近くの川や崖など危ない場所を理解することで防災意識が高まり、台風接近時に生徒たちが自ら気をつけて行動するようになったといいます。大きな地震を想定したひきとり訓練も実施。地震で交通機関が止まった時、帰宅できない生徒を親が迎えにくるまで小学校があずかる訓練で、保護者との連絡網も整備されています。日本では一般的なことですが、台風が接近した時などに生徒たちが一緒に帰る集団下校もおこなわれています。学校の一斉メールで保護者だけでなく地域の安全パトロール隊にも通知することで、緊急時解散場所まで先生が引率し、地域の人たちも生徒たちが安全に下校できるように見守ります。また、日本の子どもなら誰もが知っている「おさない、走らない、しゃべらない、もどらない」という防災の合い言葉がありますが、この学校では危険なところには「ちかづかない」という教訓も加えて指導されています。
体育館で写真やイラストなどのスライドをもちいて説明される「防災朝会」の様子。(写真提供:町田市立 鶴川第二小学校)
防災体験施設の紹介
日本では、災害を学び疑似体験できる防災体験施設も充実しています。東京消防庁の「本所防災館」では、家族で参加できる体験ツアーが人気です。消化器を使ってスクリーンの中の火元をめがけて水を噴射する消火体験をした親子は「本物の消化器は重かった。(子ども)」「災害は明日くるかもしれない。家の備えを見直してみようと、家族で話し合うきっかけになりました。(親)」といいます。都市型水害体験では、洪水時に車や非常用のドアに水圧がかかると、とても開けにくいことが実感できます。他にも、実際にあった地震と同じ揺れを体感できる地震体験や、台風のような強い雨風の装置に入る暴風雨体験、火災時に逃げる方法を学ぶ煙体験、クイズ形式で双方向に動く異常気象体感ウォールなど、楽しみながら学べて身につく防災体験ができます。「災害の怖さを知ることは大切です。次にどんな行動ができるのか考えることができますよ。」と館のスタッフさんはいいます。
(左)水圧でドアが開けにくいことがわかる「都市型水害体験」の様子。
(右)大きい地震の揺れを体験する「地震体験」で揺れが収まるまでテーブルの下で身を守っている様子。
(下)火事を見つけた時の初期消火を学ぶ「消火体験」の様子。(写真提供:本所防災館)
「品川区しながわ防災体験館」でおこなわれた親子の防災体験イベントは、身近なものを使って楽しく体験できるように工夫されています。カードゲームの防災カルタでは、遊びながら防災の知識をえることができます。カラフルなボールを消化する水に見たてたバケツリレーを親子で体験した親からは「子供も楽しんでいました。やったことがあるのとないのでは違うと思うので、経験できてよかったです。」という感想も。また、床に卵の殻を敷いたコーナーでは、災害時に割れたガラスを足で踏んでしまうと、どんなに痛いかを、身をもって想像できるようになっています。
カードで遊びながら防災の知識が学べる「防災カルタ」。
カラーボールを消火の水にたとえて、協力しながらバケツで運ぶ「バケツリレー」。
ガラスの破片に見立てた卵の殻を踏んで、災害の恐さを知ることができる体験コーナー。(写真提供:品川区)
「そなエリア東京」では、地震発生後72時間の生きる力をつける体験学習ができます。東京直下72hTOURは、もしも東京で外に出かけている時に直下型の地震がおきたら?という設定で、クイズ形式のタブレットを使いながら、避難所までの道のりを疑似体験していきます。なかでもこわれた被災地の町を再現したエリアはたいへん注目されており、段ボール製のベッドや日用品がある避難所まで本物そっくりにつくられています。「こわれた町や避難所を見て、そういう生活にならないための準備をおこなうことが重要。防災の最先端の情報にふれて、子どもたちがリードして家族みんなで防災をしてほしい。」と館のスタッフさん。津波避難体験では、背丈よりもはるかに高くおしよせる津波の大きさを体感することもできます。
本物そっくりに再現された地震の被災地のなかで、クイズ形式のタブレットを使って防災を学んでいる子どもたち。(写真提供:そなエリア東京)
もしも自然災害がおきたら、あなたはどうしますか?防災は、1人ひとりが主役です。
いざという時に自分や家族を守れるように、日ごろから防災について学んで、準備をしておくことが大切です。