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望遠鏡を下から見上げた写真(国立天文台)
最先端の技術で作られた主鏡(国立天文台)
これまでに見てきた成果は、「すばる」が最先端の技術を駆使した装置だからこそ得られたものです。では、どんな技術が使われているのでしょうか。
望遠鏡は口径が大きいほど、より暗い天体を詳しく見ることができます。しかし、鏡が大きくなると鏡自体の重さが大きくなり、気温がわずかに上下しただけでゆがみが生じやすくなります。鏡面を正確な球面に磨き上げるのも難しくなるうえ、鏡を支える土台も大掛かりになります。
「すばる」は温度変化に強い特殊なガラスを使い、厚さを20センチとそれまでの望遠鏡よりも非常に薄くすることに成功しました。鏡本体は鏡材メーカーである米国のメーカーによって製作され、完成するまでに3年半もかかりました。小さい凹凸が残っていると、集められた星の光は焦点があわず、ボケた像になってしまいます。そのため最終段階ではレーザー光を使った鏡面検査が何度も行われ、最終的には技術者が最も細かい研ぎ粉を使って手でじかに磨くこともあったといいます。研磨作業を見守る日本の国立天文台のスタッフの中には、極度のストレスによって胃かいようを起こして入院する人もいました。
鏡だけ出来上がっても望遠鏡は使えません。鏡から得られたデータを記録したり分析したりする観測装置の開発には、ニコン、キヤノンという有名な光学機器会社を始め、ソニー、富士通、浜松ホトニクス社など多くの日本の企業がかかわりました。
また、「すばる」製作にあたって開発された最先端の技術の一つに、主鏡を支える腕があります。巨大な鏡を裏から261本の腕(アクチュエーター)で支える構造で、日本の三菱電機が開発しました。「すばる」の製作で一番難しかったのは、直径8.2メートルもある大きな鏡をいかに制御するか、ということでした。これまでの常識では、鏡の重さや精度の関係で、パロマ山天文台の口径5mが限界とされてきました。従来の鏡の場合、直径の数分の一程度の厚みが必要だとされており、8.2メートルの鏡を作った場合、重さが百数十トンにもなってしまいます。「すばる」の主鏡は厚さ20センチ・重さ23トンという驚異的な薄さと軽さを実現しましたが、この薄さの鏡では、動かす時、自分の重みで変形してしまいます。そこで技術者達は、鏡を支える腕を可動式にし、261本それぞれの腕にかかる重さを常時コンピューターで解析し、鏡面にゆがみが生じれば微妙に修正するような仕組みを考案しました。これにより、鏡の誤差は0.1ミクロン(1万分の1ミリ)以下にまですることができました。世界最大の鏡を実用化できた背後には、鏡だけではなく、鏡を支えるその他の部分にも新しい技術を取り入れるという、技術者達の並々ならぬ努力があったのです。
鏡面の誤差を修正するためのアクチュエーター(国立天文台)
「すばる」の設置場所に選ばれた、ハワイのマウナケア山は天体観測には絶好の場所です。海抜4205メートルのマウナケア山頂は空気が清浄で乾燥しており、夜空が暗いため天体観測にとても向いています。天気が晴れる確率が60%以上と高いため、年間260日は観測ができるのも大きなメリットです。
しかし、山頂では平均風速7.5メートルの風が吹いており、望遠鏡のあるドーム内に気温変化をもたらしたり、望遠鏡に直接当たって鏡面をゆがませます。大気の揺らぎによって星の像がぼやけてしまうこともあるのです。
雪の中のマウナケア山頂。世界各国の望遠鏡が設置されています。(国立天文台)
そこでさまざまな工夫を凝らすことになりました。ドーム自体を風を防ぐ構造にするために楕円柱の形のドームを選んだり、望遠鏡に光を入れるためのドーム開口部に風を弱めるスクリーンを設けるなどがそれです。
「すばる」は、まさに最先端技術の集合体なのです。