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ハイテクジャパン

新型ロケット「イプシロン」


パート2

点検速度をアップする人工知能

 大勢の人が管制室で見守るロケット打ち上げの様子を、テレビや映画で見たことがありますか?


 ロケットの打ち上げは一発勝負でやり直しがきかないので、機体を組み立てる時は、細心の注意を払って点検します。準備作業が少なくてすむ固体燃料ロケットといっても、M-Vまでは、飛行中の姿勢や軌道を制御する機器を部品ごとにチェックしたり、ボルトの締め具合を一つ一つ細かくチェックしたりしなければなりませんでした。


イプシロンロケットに搭載される人工知能「ROSE」(提供JAXA/JOE NISHIZAWA)

イプシロンロケットに搭載される人工知能「ROSE」(提供JAXA/JOE NISHIZAWA)

 そこで、こうした細かい点検作業を省くため、イプシロンの機体には、「ROSE」と呼ばれる新開発の人工知能が取り付けられました。ロケット自身が、“自分の体調”を診断する世界初の試みです。その結果、M-Vで6週間かかっていた組み立て作業が、イプシロンではたった1週間ですむようになりました。


イプシロン打ち上げ後の管制室の様子(提供JAXA)

イプシロン打ち上げ後の管制室の様子(提供JAXA)

M-V型ロケット打ち上げ当時の管制室の様子(提供JAXA)

M-V型ロケット打ち上げ当時の管制室の様子(提供JAXA)

 また、打ち上げ時の管制室の作業も自動化しました。機体内のネットワークと交信する「モバイル管制」と呼ばれるこのシステムでは、大勢の担当者が数時間かけて実施してきた発射直前の点検を、2台のパソコンを使い、たった70秒で終える行うことができます。発射場近くにある管制室に100人近くの担当者が待機し、コードでつながったそれぞれの機器をチェックしていたのが遠い昔のようです。今回の打ち上げで管制室に集まったのは8人だけでしたが、将来は3人まで減らす予定です。離れた安全な場所で管制作業ができるので、ヘルメットも必要ありません。


 これらの仕組みを新しく取り入れたことで、イプシロン1号機の打ち上げ費用は、M-Vの時から3割減らして53億円ほどにおさえられました。2号機以降はさらに下げ、17年には30億円台を目指しています。



小型衛星打ち上げに最適

宇宙空間に向けて飛び立つイプシロンロケットのイメージ図(提供JAXA)

宇宙空間に向けて飛び立つイプシロンロケットのイメージ図(提供JAXA)

 今回打ち上げられたイプシロンは、地球を回りながら木星や金星などを観測する宇宙望遠鏡「ひさき」を、高度約1000㌔の軌道の上に投入することに成功しました。


 小型ロケットのイプシロンによって打ち上げることができるのは、小さめの人工衛星や惑星探査機ですが、これからの宇宙開発を展望した場合、そのことがかえって有利になると考えられています。カメラや電池など小さな機器の性能がどんどん高まる中、費用をかけずに短期間で作れる小型衛星が主流となってきているからです。


 宇宙に人工衛星を打ち上げることができる科学技術を持った国は、そう多くはありません。これから宇宙開発に乗り出そうと考えている新興国にとって、小型衛星を打ち上げるのに最適なサイズのイプシロンは、とても魅力的な存在となるでしょう。


 世界で最も簡単に打ち上げることができるロケットの開発は、遠い宇宙の存在を、より身近なものに感じさせてくれそうです。


(2013年12月更新)