猿に始まり、狐に終わる
舞台で演じる狂言師(きょうげんし)は、とても大きな声で話し、面白い身振りで笑ったり、泣いたり、痛がったりします。初めて狂言を見る人は、普通の演劇よりもだいぶ大げさな演技をする様子に驚くことでしょう。それらの演技の一つ一つは「型(かた)」と呼ばれ、数百年もの間に完成されて、変わらず受け継がれています。
現代でも、狂言師の家庭に生まれた子どもたちは、2~3歳から、この型を親から厳しく教えられます。そして、ほとんどの子どもたちは、4歳前後になると、小猿の役で舞台にデビューし、たくさんの役を学びながら成長して、20歳を過ぎる頃に「釣狐(つりぎつね)」という演目で主役を努めて、一人前の狂言師になる準備を終えるのです。このことを、狂言の世界では「猿に始まり、狐に終わる」と言います。
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地元の子どもたちも参加した新作狂言「茨木童子」の場面。狂言師は、木彫りの面(おもて)をかぶって鬼や動物などを演じる(撮影協力 茨木市文化振興財団)
親から子ども、孫へと伝統が守られ続けている狂言ですが、舞台で演じられるのは古い物語だけでなく、現代風の新作も発表されています。
大阪府茨木市で2013年秋に上演された新作「茨木童子(いばらきどうじ)」は、地元に伝わる鬼の物語をベースに、新しく作られた狂言です。物語には、優しい鬼と、今の時代にもいるような、逆立った髪型の若者が登場します。若者は、いたずらをして騒ぎを起こしますが、鬼に諭(さと)されて、最後には心を改めます。この狂言の上演をきっかけに、茨木市では、地元の子どもたちが狂言について学ぶワークショップが開かれました。参加した子どもたちは、本番の舞台で鬼と仲良しの子どもの役を上手に演じました。
本格的な演技を習う
こうした子どもたちを対象としたワークショップや演劇の鑑賞会が、日本の各地で開かれています。
![]() 狂言師・野村万蔵さんが指導するワークショップ「としま子ども狂言教室」での稽古の様子(提供 としま未来文化財団) |
![]() 野村万蔵さんによる本格的な演技指導(撮影協力 としま未来文化財団) |
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ワークショップの終了を記念して稽古場で開いた発表会で物語「口真似」を演じる子どもたち(撮影協力 としま未来文化財団)
2011年夏から、東京都豊島区の財団法人が開いているワークショップでは、小学生の子どもたちが半年間にわたって、日本を代表する狂言師の野村万蔵さんのもとで狂言の基本を習いました。お腹から声を出す狂言独特の話し方や、足の裏を床から離さずに歩く「すり足」など、最初はうまくできずに戸惑(とまど)っていた子どもたちでしたが、この秋には都内で開かれたイベントで、本格的な舞台発表に挑みました。
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「民俗芸能inとしま」で「名張子ども狂言」の中学生たちが演じた「附子」の場面。名張子ども狂言は、プロの狂言師が本格的な演技を子どもたちに指導する日本で最初のワークショップとして1991年にスタートした(撮影協力 としま未来文化財団)
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舞台発表を終えて拍手を浴びる子どもたち(提供 としま未来文化財団)
子どもたちが演じたのは「口真似(くちまね)」という物語です。主人から「自分が言うとおりに行動しろ」と言いつけられた家来が、主人の物まねをすればいいと勘違(かんちが)いをします。まねをしなくてもいいことまでいちいちまねてしまう家来に、主人は怒りますが、家来は、自分が怒られた通りに来客を怒って投げ飛ばしてしまうというストーリーです。
このイベントには、三重県名張市で狂言の演技を学んでいる「名張子ども狂言」の中学生、高校生も参加し、表現力豊かに「附子」を演じました。どちらも堂々とした演技で、観客から大きな笑いと拍手を浴びました。
笑いの芸術「狂言」は、こうした子どもたちの心を通じて、しっかりと未来に受け継がれてゆきます。
(2013年12月更新)